歌姫さんの探偵になる決心6
「こらレティ。何がおかしい?」
リックがレティの頬をぷにぷにとつついてきた。
「いいえ」
レティは頭を振って中身の入った皿を下ろした。
代わりに自分の前のを取って、ボウルの中から人参がつかないようにしてレタスとトマトだけを器用に取り、ドレッシングを掛けた。
それからスクランブルエッグのボウルから、中身を掬ってケチャップを垂らす。
ハムも三枚盛り付け、パンを添えてリックの前に出した。
「人参、ついてないと思いますよ」
にっこりして、レティは同じように自分の分を取った。
「……ああ」
リックは苦虫を噛んだような顔をして、でも気を取り直して食べ始めた。それでレティも食べ始めた。
「こんなに大勢でご飯を食べたの初めてです。楽しいですね」
「そうか。良かったな」
レティの笑顔を目に入れて、リックは今まで続いていた不機嫌さを忘れ、慈しみの表情を出す。
レティがゆっくり皿の中身を片付ける間に、リックは何回もおかわりをしていたのに驚いた。
「リック様はたくさん食べるんですねぇ」
「レティはむしろ、もう少し食べる量を増やした方がいいぞ」
話している間にディノスは立ち上がり、側の丸い皿を取り、一枚をリックに渡す。
リックはその中にフルーツヨーグルトを入れ、レティに差し出した。
「ありがとうございます」
両手で受け取って、口に運ぶ。ディノスも同じように皿に注いでテーブルに置いた。
「どれもとっても美味しいです」
頬に手を当てて喜んでいたら、あることに気がついた。
「ディノス様の……」
レティよりも後にフルーツヨーグルトを取り、食べ始めたはず。
レティがまだ三回しか中身を救ってないというのにもう彼の皿は空だった。
「お嬢ちゃん、味は大丈夫かい?」
ディノスに聞く前に、ジャンの声がして慌てて答える。
「はいっ!とってもとっても美味しいです」
ジャンは親指を前につきだして、ニカっと笑った。それでつい、ヨーグルトのことを忘れてしまっていた。




