歌姫さんの探偵になる決心5
「やばっ」
二人のリーダーが来て喜んだのはレティだけで、野次馬のクルーは焦り始めた。
そのはず。剣呑な眼差しのディノスはまだ良い方で、リックは黒いオーラを放って明らかに怒っている。地響きがしそうな目付きをしていた。
「お前らぁ……何の話してんだ……?レティの耳に何聞かせた?」
「船長、どうしたんで?」
リックの様子に気がついた料理長が問う。
「こいつらがレティに耳汚しな話を」
「何ィ!?」
「リック様……?」
料理長まで肩を怒らせて燃え上がった。
見たことのない表情に戸惑うレティに気がついたディノスが、無言でリックの腕を小突く。
リックはため息をついて、怒りを留めた。
「このバカタレ共がぁッ!」
「朝っぱらから、えげつない話をするんじゃない……」
ガガン!ゴッ、ゴッ!レティが痛そうな音に目を閉じる。
料理長がフライパンで、向かい側はディノスが拳で制裁を与えた。
クルーが散り、リックはレティの隣に、ディノスはリックの向かいに腰を下ろした。
「レティ、今の話は全部綺麗サッパリ忘れて良いからな」
「はい……」
「レティは知らなくて良いことだ」
不機嫌そうな顔で、リックはレティの用意したカップに口をつけた。
「リック様、おつぎして良いですか?」
「ああ」
レティは皿を手にしてサラダをついだ。
「サラダはこれくらいで良いですか?」
「ああ……。って!」
サラダを目にし、コーヒーを吹きそうな顔をした。
「お、多すぎでしょうか?」
「い、いや……そうじゃなくて」
「また子どもみたいなことを言ってるのか」
先に自分の分を取ってしまって既に食べ始めてるディノスが呆れた声を出した。
「気にするな、レティアーナ。リックは人参が嫌いなんだ」
「え?」
皿を見ると、細かく切ったオレンジ色の人参が確かに紛れている。リックは頬杖をついて舌打ちをした。
(リック様もそういうところがあるんだ……)
レティは少し笑ってしまって、それを気づかれた。




