歌姫さんの探偵になる決心3
「おはよう……ご、ざ……」
ディノスが開けて入った後に挨拶をして同じように入ったが、わーわーとあまりにも騒がしすぎて、かき消されてしまった。
酒場である程度の騒がしさに慣れていたレティも、店の三倍の人数の声には驚いた。
食事にがっついたり取り合いになっている彼らは、レティたちには気づかないらしい。
代わりに料理長が気がついてくれた。
「お嬢ちゃん、おはようー!初の朝メシだなぁ!」
お玉を振り上げてこっちに笑顔を向けてくれている。
レティも挨拶は聞こえそうにないので、手を振った。
料理長の声は騒がしさを突き抜けたので、やっとクルーがこちらに気がついた。
声が落ちたので挨拶をするか迷っていたらディノスに呼ばれた。
「レティアーナ、こっちが空いている」
「あ、でも私、リック様に言わずに出てきてしまったので、一度戻ります」
「気にするな。あいつも子どもじゃないから部屋にいなければここだとわかる。それに一人で行くと迷うぞ。気になるなら俺が呼んでくる」
「そしたら、私お二人の飲み物を用意させて頂きますね?」
「リックはホットコーヒーのブラックだ。俺はミルクコーヒーのアイスで」
「はいっ」
(流石皆さんのことをわかってらっしゃる方だなぁ)
感心しながらディノスの背中を見送った。それから厨房に向かう。
「ジャン様、昨夜はありがとうございました」
「おおっ、口に合ったかい?」
「はい。美味しく頂きました」
「そりゃ良かった。ちょっと待っててな。それはその辺に置いといてくれ」
ジャンに言われたので、料理を置く台の隅にトレーを置いた。
冷蔵庫からグラスを取り出してレティの前に置く。
「ビタミンたっぷり、フルーツ百パーセントのミックスジュースだよ」
「ありがとうございます!」
笑顔でレティが受けとると、後ろから声が飛んできた。
「ジャンさん、ずりーよ。俺たちはぁ?」
「バッキャロー!筋肉の塊のお前らに、ビタミンの心配なんか要るかぁっ!心配するなら野菜食っとけ!!」
腕を振り上げてジャンが怒鳴り返し、レティは笑ってしまった。




