歌姫さんの探偵になる決心
「……ふぁ?」
暑くて寝返りを打とうとしたら動きにくい。目を覚ました。
ゆったりしたリズムで上下する大きな体。
そうだ。ここは船でリックの部屋にいるんだ、と、レティは思い出した。
目の前にある手がレティの手の甲をすっぽり包んでいて、怖がらないようにしてくれたんだと思うと幸せな気持ちになった。
そっとそこで手の向きを変えて指を合わせてみる。
「……こら。」
頭の上で低い声がして、ビクッと肩を揺らす。
「寝てる間に人の手で遊ぶんじゃない」
「起こしてしまいましたか?」
「いや。レティが起きる少し前に起きた」
上を向いて訊ねたら、寝起きの目が優しそうに此方を見ていた。
「おはようございます」
「おはよう」
「リック様の手は大きいなと思っていたんです」
何て言えば。
「ガオー……」
と低い声が鳴き真似をして、レティの手を丸めて自分の手の中に納めてしまった。
「リック様……。パーしてください」
言う通りにしたら、レティの手が合わせられた。
「長さも幅も勝てませんねぇ」
特別小さい手ではないが、どうやらリックの手が一回り大きいらしい。
自分の指を触ったりつついたりしているレティを見守っていると、あることに気がついた。
横向きになっているせいで、レティのパジャマの上の首元が少し大きめに開いている。
「……」
そこから見えるのは華奢な体。胸が。
(まさか)
昨夜のレティの言葉を思い出した。
『ちっぱいって何ですか?』
(小さい胸で……?)
十代前半の娘が、丁度大人の身体になり始めた頃。そんな淡い膨らみと変わらない。
そう言えば何度か体を近くに寄せたのに、女性特有の柔らかい感触がそんなになかったと思い出した。
(こりゃ、口が裂けても意味は言えねーな)
知らない方が傷つかずに済むこともあるのだ。
目線を上に上げ、困った顔をするリックだった。同時に。
(そんなことを言うような奴は……)
「そろそろ起きるか」
ベッドに肘をついて上半身を起こし、レティに声をかけた。
これ以上ベッドの中にいたら、余計なことを悶々と考えてしまいそうだと思ったからだ。




