つかの間の日常?11
「何で……」
「お前が背負ったら妊娠するわ」
「酷い!二回も言われたー!」
「背負う建前の元、女の子の感触楽しみたいだけじゃん」
「それは男としての楽しみというか」
「じゃかーしい!!」
二人の絶え間ないやり取りを黙って聞いていたが……。
「う、ふふっ」
レティは堪え切れずにクスクス笑った。
「お二人とも、仲が宜しいのですね」
「えっ!」
リンリーが嫌そうな声を出した。逆に、男の方はのほほんと笑っている。
「そう見えるー?」
「はいっ」
「それは良かった良かった」
眉間を険しくし、更に下唇を突き出してすごく複雑そうな顔をしているリンリーの表情が、レティから見えていないのが幸いだった。しばらくすると砂利道を抜け、街に入った。
「リンリー様、ありがとうございました」
「ん?」
レティはリンリーの肩を叩き、彼女が足を止めた。
「街に着いたので、もう大丈夫です」
「大丈夫って、そのケガ治療しなきゃじゃん」
「あ、はい。帰ってしてもらいます。お借りしてるバンダナとかは後日返しに……」
「病院行くんでしょ?治療代かかるよ」
「あっ、でも船に行けば」
「ん?」
(あっ……)
リンリーの反応で、言わない方がよかったかもしれないと思う。
「あー。船で観光に来てたからか。だから狙われたんだなー」
フムフムとリンリーは頷いた。苦し紛れに、レティはコクコクと頷いた。
「でもケガの原因はどっかのバカのせいだし、ちゃんと手当てするよ。悪いのはバカのやらかしだからね」
「また二回言った!酷い!」
「うちで治療したらお金かかんないし、心配しなくていいよ」
男の嘆きは無視し、リンリーはまた歩き出した。
「あのー、『うち』というのはどちらですか?」
「もう着くよ。前方に見えてるあそこ」
両手が塞がっているので、リンリーはレティの質問に顔を振って示した。
「ほわぁー。随分おっきな建物ですねぇ!」
「観光名所の一つだよ。と言っても、基本的に一般人はこっちの建物には入れないけどね」
建物の周りはクリーム色の高い壁、真ん中に大きく黒い門があった。
「世界保安部ティートコア支部」
「えっ……」
(あわわわわ!こ、これは結構……まずいのでは」
目を回す勢いで混乱してきた。リンリーの弱者を守る仕事や訓練しているといっていた言葉のないように、ようやく合点がいった。
(リンリー様には申し訳ないけど、ここは逃げ……)
急に逃げてしまえば、何故逃げるのかと不審がられ、きっと身元が知られてしまう。人と比べたことはないが、足もそこまで速いわけではないし、捕まる可能性の方が大きいだろう。
(それはそれでダメな気が……)
目をグルグルさせて、冷や汗もダラダラ流すレティ。このまま手当だけ受け、何事もなかったかのように帰るというのが一番よさそうだ。
(リック様ごめんなさい!海賊船のクルーなのに、保安部様で傷の手当てをしてもらう流れになってしまいました!!)
リンリーの方に置かれた手が震えているのに気づき、彼女が笑う。
「レティは手当てするだけなんだから、緊張したり怖がらなくていいよ。捕まるわけじゃないんだから」
「は、はひぃー」
(いや、捕まる対象なんです!)
緊張のあまり、声が裏返ってしまう。横で、男が腰に巻き付けていた上着を解き、袖を通す。そのせいか、先ほどまでの雰囲気と変わり、リックとはまた違うタイプの洗練されたような背中に見えた。
そして、上着の胸ポケットに無造作に入れられていた布を引っ張り出し、閉じられた門につけられた小さな機械にそれをかざす。ガコガコと重い音を立て、門が自動で開いた。かざしたのは通行証のようなものなのだろう。
「……しょっと」
リンリーは少し体を揺らし、レティを背負い直して進んだ。




