船に隠された不思議な秘密5
「一応ノックはしたんだが……」
ディノスは落ち着いた物腰でテーブルにトレーを下ろし、ホットミルクの入った白いカップともう一つ茶色の液体の入ったカップを置いた。
「夜遅いからな。お前のはハーブティを持ってきた」
「助かる」
リックはホットミルクを取って、レティに渡した。液体が喉を嚥下したのを見届ける。
「何かあったのか?」
ディノスは向かいのソファに腰を下ろした。
「分からん。それを聞いていたところだった。レティ、続きを話せるか?」
レティの口についたホットミルクの跡を親指で拭ってやる。レティは浅く頷く。
「本が勝手に動いてて。電気が消えて……」
思い出して背中がゾクリとした。
「幽霊がいますっ!」
「……」
「……」
レティの必死に紡いだ最後の言葉。リックとディノスは唖然としてお互いの顔を見てしまった。
先に聞こえたのは、近い声だった。
「……は?」
「だってリック様、誰の姿も無かったのに足音とか物だけは動くしぃー。幽霊ですよぉっ」
吐き出して落ち着いたのか、レティはホットミルクをちびちびと飲む。
大騒ぎした理由が『幽霊』とは。
「プッ」
リックが吹き出した。その後に声を上げて笑い出す。レティの頭にハテナが浮かんだあと、必死に言う。
「嘘じゃないですっ、本当なんです、リック様!本当に本が動いて電気が……」
リックが笑いをおさめられないようなので、代わりにディノスが答えた。
「そんなものはいないから大丈夫だ、レティアーナ」
「私っ」
「俺もリックも、レティアーナが嘘を言ったとは思っていない。俺は長いことここにいるが、そんな話を聞いたことはない」
「……」
あまりにもドキドキしながら入ったから、そういうように見えてしまったのだろうか?
確かに電気は消えたが。
レティは自分が見たことが本当だったのか、不安になってしまった。
その時に漸く笑いの止まったリックが、レティの頭に唇を落としてギュッと抱き寄せてくれた。
「怖い思いをして、そりゃあ災難だったな、レティ」
それから、正面の男に目を合わせる。




