つかの間の日常?10
「どうかした?」
「いっ、いえ!何でもないです」
「ここ出たら魔法陣調べないとな」
リンリーは上を向いて、ふぅーっと息を吐いた。それから。
「はよ助けに来いっての。……って言っても、今日は休みだからわかんないのかな」
「リンリー様は今日、お仕事お休みでいらしたんですか?」
「うん。まぁねー」
「貴重な休みの日を申し訳ありません」
トラブルに巻き込まれて、台無しにしてしまったのだ。レティは申し訳なく思った。
「あー!そういうの無し!勝手に横入りしたのはあたしだし」
そんな話をしていた時、上からガタガタと音がした。
「何だお前は!?」
焦る声とともに、物音や声がさらに激しくなった。何かが倒れ、テーブルなのか椅子なのか、ずれたりひっくり返ったりする音。音に紛れ、喋る声はよく聞き取れない。しかしレティは立ち上がった。
(きっとリック様が探してきてくださったんだ!)
しばらくして物音が止み、塞がれていた天井がガタガタ揺れだした。レティは嬉しくなり、上に向かって声を上げる。
「リック様!」
「レティ!」
リンリーが何かを察知してレティを呼んだ瞬間。――ガンッ!レティの顔面に外れた天井の蓋が直撃した。
「わ!?」
「うっわああああああ――!!?」
重みと衝撃でレティはそのままひっくり返った。
「やっと開いた。生きてる?」
上から茶髪の男が顔をのぞかせた。それを見て、リンリーのこめかみに青筋が立つ。
「このバカッッッ!見ろ!ケガ人出たわ!」
差し込んだ光から、男にも板の下敷きになって倒れている体が見えた。
「ごっ!ごめん!」
男は踏まないように下に降り、板を退けた。
「はれぇ……」
「大丈夫……じゃないよね……」
倒れた時に後頭部もぶつけていたので、いつぞや風呂でひっくり返った時のように、レティは頭がガンガン鳴って目を回していた。
「あたしが見るから、とりあえず解いて」
リンリーに言われ、男は腰のベルトに下げていた短刀で拘束を切った、リンリーはすぐに起き上がってレティの側に膝をつき、顔を覗き込みながら肩を叩く。
「レティ!大丈夫か?あたしが分かるか?」
「あ……」
頭はズキズキと痛むものの目を開けた。手をついて起き上がろうとすると、リンリーと助けに来てくれた男が手を貸してくれた。額に手を当てる。
「あ、はい。ちょっとびっくりしましたけれども」
ツー……。何かが流れる感触がした。
「え?」
自分の手を見て驚愕した。手が赤く汚れている。額から血が垂れていた。
「はひゃああああ!?」
ビターン!レティはまた仰向けに勢いよくひっくり返った。
「うわぁあ!」
「レティ!?」
しばらくして、レティは目を覚ました。何かに揺られ、そして近くから足音がする。
「うーん」
「あっ、起きた?」
底はなんとリンリーの背中だった。レティを背負って歩いてくれているらしい。
「すっ!すみません。降りますね」
「良いっていいって。ケガしてるんだから。覚えてる?額から血出して倒れたの」
「あ……」
無意識に額を触ろうとすると、横から手を掴まれた。
「ハンカチをバンダナで押さえた簡易処置しかしてないから、触らない方がいいかも」
あの時助けてくれた男だ。柔和な顔で微笑んで、自分の額を指さす。だが、リンリーはこめかみに青筋を立てた。
「ぬんっ!!触んなやぁ!」
ドスッ!右足を上げ、膝で男の左腿を蹴った。
「あいたぁ!」
「セクハラだ、セクハラ!」
「いや、今のは仕方ないでしょうよー」
「兎に角触るな!妊娠するだろ!」
「えっ!俺ってどんな人!?っていうか、そろそろ俺がおんぶするよ」
「いい!」
リンリーは間髪入れずに答えた。




