つかの間の日常?5
「ゆっくりな」
リックに手を引かれ、足場の悪い斜面をレティは進んでいた。一目につきにくい所に船を止めたのだが、ちょっとした急な山道のようなところを通って、街に行くことになってしまったのだ。
鍛えられているほかのクルーたちは、身軽にひょいひょい進んでもう街に溶けているだろう。
ズルッ!片足が滑り、レティはバランスを崩す。
「きゃ……」
「おっと」
リックがすぐに腕を引いて体を引き寄せてくれたが、近くにあった木に背中をぶつけてしまった。
「リック様!」
「平気だ。レティこそ、足痛めたりしてないか?」
「はい」
「やっぱ、俺が抱えて降りた方がいいか?」
「自分で歩きます。恥ずかしいですって」
船から降りた時点で提案されていたが、リックに抱えられたまま街に現れるなど、人目が刺さって痛いに決まっている。
それでなくとも、服にトレードマークの赤がない時も、何となく人目を引き付ける彼なのだから。
リックがニヤニヤしながら言うので多少からかわれていると分かりつつ、レティは顔を赤くして否定した。
「あんた達、まだこんなところにいたの?それともただイチャついてるだけ?」
後方から声がしたので振り返ると、木に手をついてディノスが現れた。いつも通り、ユーシュテが彼の肩にちょこんと掴まっている。
「レティが転ばないように、ゆっくり進んでるんだ。お前と違ってな」
「私ヒールだしー。こんなとこ歩けないもん。そーいや元々、山だか丘だかに住んでるって言ってなかったっけ?レティ」
「ちょっと山登ったとこだったけど、もっと歩きやすかったの」
「ふむふむ」
ユーシュテはレティの話を聞いて頷いた。
「それなら」
レティに向かってディノスが手を差し出す。
「ディノス様?」
「リック。お前はそちらからレティアーナを支えろ。両側から安定させれば歩きやすいだろう」
「そうだな」
両手でそれぞれ、リックとディノスと手を繋ぐ形になってしまった。ゆっくり目ではあったが、二人に合わせて歩く。
左右にグラグラしてもどちらかが支えてくれるため、最初より随分早く進んで街に着くことができた。
「ありがとうございました。ディノス様」
「いや、礼には及ばん」
「じゃあねー。レティ」
ユーシュテは既に大きくなっており、ディノスの腕に自分の腕を絡め、レティに手を振った。
「俺たちも移動するか。どこか行きたいところはあるか?」
「そうですね……」
自然と手を繋いでリックが訪ねる。レティが考えようとした時。
「!」
ドンッ!レティの上に衝撃があり、よろめいてしまった。リックが支えてくれる。
「レティ!大丈夫か!?」
「急いでたもので申し訳ありません」
「いいえ……」
ぶつかった人物が早口で謝罪を述べ、また小走りに去っていく。声は低かったので男だと思うのだが、灰色のパーカーのフードまで被っており、表情は良く分からなかった。




