つかの間の日常?3
「そうだ!」
掌に拳をポンと落とし、フィルは閃いた。
「レティアーナさん。助け舟を出しましょう」
「?」
こてっと首を左右に傾げ、レティがフィルを見つめる。声色に温度差のあるやり取りが静かになった。
「船長が仕事をさぼるので、副船長が困るそうですよ」
「はい」
「レティアーナさん。お手伝いして喜んでもらうの好きですか?」
「はいっ!」
「じゃあ、やりましょうか。船長と副船長の為に」
フィルは唇の前に人差し指を立て、片目を閉じてにこりと笑う。
男にしては可愛らしい外見が、もったいないと思う瞬間。レティは頷き、リックを見る。
「リック様、お手伝いさせてください」
「いや、でも……」
レティと一緒にいられるのは嬉しいのだが、何かが違う。それに、仕事をするのには変わりないわけで。
「俺はレティとのんびり休憩したいんだぁー」
「子どもかお前は。」
レティの肩にすりすりと額をつけて、我儘を言うリック。ディノスは銃を腰に付けた皮ケースに収め、横目で見ながら呆れた声を出す。
「結局、船長が敵わないのはレティアーナさんだけなんですよねぇ」
「まあ、そうだな……」
クスクスと笑い、ディノスはフィルに頷いた。
「終わった――!」
「私もこれでおしまいです」
リックは両手を上げ、椅子に乗ったまま背を反らせる。リックの向かいに座っていたレティは、紙の束を持ってトントンと机で慣らし、端を綺麗に揃えた。ペンの先に付着した余分なインクを拭き取り、キャップを閉めて立ち上がる。
リックの仕事というのは、船にかかる予算を通すか否かの判断が多かったように見える。
予算を通すものに、レティと手分けしてサインした。基本は直筆らしいのだが、今回はディノスの承認があり、レティの代筆も入った。
「お疲れ様です、リック様。ディノス様、これはどちらに置きましょう?」
「ああ。これで留めて、テーブルにおいてくれ。ご苦労だった。レティアーナ」
「いいえ。楽しかったです」
手渡されたクリップで紙を二つ留め、テーブルに置いたのはいいものの。まだそのテーブルには紙の束が連なり、ディノスの机も書類が重なっている。リックのこなした比ではなさそうだ。
ここは執務室。二人とも寝室になる自室とは別に、ここで仕事をしているらしい。小さな部屋には寝そべれるくらいのソファとテーブルが一つずつ。
一人通れるくらいの間を開け、机といすが二つ奥に並んでいる。机はそれぞれにライトと内線が置かれている。
ちなみに、隣の部屋は会議室だ。
ディノスは眼鏡をかけ、真剣な表情で書類に目を通し、時たま何かを書き込んだり分類したりしている。左手をこめかみに当てた時、視線に気がついたのかふと顔が上がる。
「レティアーナ?どうした?」
「ディノス様、眼鏡お掛けになるんですね。初めて見ました」
「ああ。度は入っていない。目が疲れにくい機能なんだ」
「そうなんですか」
ふむふむと頷く。




