無意識の声16
体の中からゾクゾクとした警告が駆け巡る。
(あの剣は手にしてはいけない――)
包み込んでいた小さな手が動いた気がして、リックは眠気と戦いながらうっすら目を開けた。
「!」
レティはパッと目を開ける。体に一瞬力が入る。
「レティ……?」
リックは起き上がろうとしてそして。――ゴッ!
「んがっ!」
勢いよく起き上がり動いたレティの頭が、運悪くリックの顎にクリーンヒットした。後頭部の衝撃と声でレティは何が起こったか悟り、今度こそはっきり目を覚ます。
「――ああっ!リック様!」
「……う」
ピクピクとベッドへうつ伏せになり、予想外のダメージに耐える彼の姿があった。
「大丈夫ですか!?リック様っ!ごめんなさい」
「んや、大丈夫だ……。気にするな」
くぐもった声が聞こえる。
「寝ぼけてて本当にごめんなさい」
彼の背中に覆いかぶさるようにして、謝罪をする。すると大きな体が少し動き、レティも体を少し離す。
ポン。頭にリックの手が乗る。片方の手は顎に当てられていたのでまだ痛いのだろうが、空いた手でレティをヨシヨシと撫でてくれる。
「また何か嫌なものでも見たか?」
「……」
そうだ。寝ていながら自分は恐怖を感じた。――だが。
「その……」
「うん?」
リックはレティが話し出すのを待ってくれている。
「実はリック様とぶつかっちゃった衝撃で、綺麗さっぱり忘れちゃったんですぅ……」
「んなっ!」
最後の方は消え入るような声だった。流石のリックも驚きの声をあげた。レティの頭から手を離し、自分の目を腕で隠す。
「プッ……」
吹き出して、そのままクックッと笑い出す。
「今ので嫌なものが吹っ飛んでいったなら、痛みを受けた甲斐があったってもんだなぁ」
「ああん。ごめんなさい」
「謝らせたいわけじゃないんだ。気にしないでくれ。もう痛みは治まった。びっくりしたがな」
笑いをおさめ、レティの腕を引っ張る。……ぽすん。レティはまたベッドに体を沈めた。
「寝られそうか?」
「はい」
「起きられそうだと思ったら、さっきみたいに起きるといい。その後、遠慮なく俺を起こしてくれても構わないし。レティが自力で起きられそうにないまま苦しんでるなら、約束した通り俺が呼び戻すから」
今度は向かい合う。 リックが布団をかけ直し、整えてくれる。
「近くにおいで」
より体温が感じられるほど体を寄せ、首の下にリックの手が回る。緩く抱きしめられる形。
「おやすみ」
コツン、と額をくっつけた後に、リックは軽く一度レティの唇にキスしてくれた。
「おやすみなさい。リック様」
(……ああ。安心が戻ってきたみたい)
レティも再び目を閉じた。




