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無意識の声15

「揉み足りないところはございませんか?」

「はぁい。ございませんー」


まるで今は執事のように聞いてくれる彼に、目を閉じてにこにことしたままレティは答える。

いつだってリックはこうしてレティにだけくれる特別な時間を作ってくれて、それはなんという……。


(幸せ……)


この満ち足りた時だけは、リックのこと、幸せな気持ちだけを感じていられて余計な力が抜けていく。

静かな部屋で、幸せな感覚だけに浸ってしばらく経った時。


「レティ?」

「……あ」


自分を呼ぶ声にハッとした。少し背後に目を向け、穏やかな顔でこちらを見ているリックと目が合う。

彼はレティの上からずれ、ベッドに腰を下ろす形をとった。


「寝かけてたみたいだな」


大きな手がサラサラと髪を撫でてくれる。


「眠くなったか?」

「はい」

「ちょっと待ってな」


リックはベッドから離れ、机のそばの椅子にかけていたジャケットを取った。クローゼットを開けて、ハンガーにジャケット掛け直し、それから寝巻きに着替えるために、服を脱ぎ始めた。

その様子をぼーっと見ながら、背中についた古傷に目がいく。この船に乗り、彼の背中を初めて見た時もあの傷に気がついた。レティと出会う前の戦いできっと負った傷。そこにはきっと、彼の必死に生きてきた証があるのだ。

そんなことを考えていたら、リックがジーンズに手をかけて身を屈めたので、レティは慌てて壁の方に体を向け直した。程なくしてクローゼットが閉まる音がし、足音が近づいてきてリックがベッドに乗ってきた。スプリングが揺れる。

背中が暖かくなり、リックの胸がそばにあることがわかった。彼の右手がレティの腕に触れる。そのままベッドに無造作に置いていた手に指を絡めて包んでくれる。


「俺がついてる。安心して寝ていい」

「ありがとう……ございます」


優しい声に応えたあと。ふぁ……。小さく欠伸をしてレティは目を閉じた。繋いでない方の手が、レティの頭を撫でてくれる。

寝るのが怖いという気持ちは薄らいでいき、とろとろと眠りに落ち始めた。


(夢の世界でさえも、リック様と一緒にずっとお話出来ていたらいいのにーー)


現実に留まった意識は薄らいでいく。ただ何も無い白い世界へ。

暖色の光に照らされたような何も無い場所で、レティの視界に金色の何かが映った。細いそれは。


「糸?」


(いいえ、これは)


無意識に手に取った細いそれを見た拍子に、肩からサラリと髪が滑った。その色。


「私の髪!?これ……」


摘んだ毛束。その毛先が金色。自分の髪の色は確か、混じり気のないアプリコットブラウンだったはず。


「どうして……」


戸惑うレティの耳に、女の声が聞こえる。どこかで聞いたようなそれ。


《思い出しなさい。その身体に刻まれた貴女の【役割】を――》


「どなた様ですか!?どこにいらっしゃるのですか?」


視線を左、前、右へと順に向け、声の主を探す。 そしてまだ見ていない後ろを振り返る。

そこにあったのは。


白い床に突き刺さる何か。あの形には見覚えがある。リックや仲間達が戦いの最中、使うもの。剣の柄。


《わたしは貴女の中にいる》


声が再び聞こえた。そして気がつく。聞き覚えがあるはずだ。というか、あるも何も。


(私の声?)


声は続く。


《それを手に取って》


レティは頭を振った。


「あれを抜いても無理。だって私、戦えない」


(戦いたくない。――怖い)


誰かを傷つけ、殺めてしまうのは怖い。だが、心の底から魂が震えるような、この拒否感は一体……。

ギュッと目を閉じ、体を固くする。




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