無意識の声14
いつもは癒しの時間の風呂は長めの時間になるのだが、ジャンからのハーブティが気になって早めに済ませてしまった。部屋で髪を乾かし、スリッパを履いて小走りにリックの部屋へ向かう。
コンコン。
「入っていいぞ、レティ」
ノックをしたら、やはり姿を見せる前に誰が来たのかわかってしまっていて、リックの声がする。
「早かったな」
「はいっ!ハーブティが飲みたくて」
「そうか。じゃあ頂くか」
透明なテーブルに置かれたトレー。レティはリックとソファに座り、魔法瓶からティーポットへお湯を注いだ。茶葉に触れた湯が、綺麗な茶色へ染まっていく。
茶葉が開いた頃にカップへ注ぎ、自分の分にはミルクとハチミツを加え、スプーンで混ぜた。
爽やかな香りを吸い込むと、それだけで気持ちが落ち着く気がする。
「美味しい……」
「良かったな」
レティが一口飲むのを見届け、自分もカップに口をつけてリックは優しく言った。右手でカップを持ち、左手はレティの肩に手を回して指先で髪を梳く。
カップの中身が空になった所でそれをソーサーに戻し、リックは言った。
「レティ。飲み終わったらベッドにうつ伏せで寝てくれ。布団被らないでな」
「?は、はい……」
不思議そうな顔をして、レティはリックのベットに向かう。スリッパを脱いで、言われた通りにした。
「あの、リック様。これで良いですか?」
「よいしょっと」
その上からリックが跨がったので、レティは驚いた。
「あ、あああ、あのっ」
この船に入った初期の頃を除き、その後リックのベッドにレティが居るのは、力を使い果たして体力回復をする時と、あとは……。頭の中がピンク色になるような記憶。
リックの手がレティに伸びる。怯んでしまうレティだったが、その手は両肩に触れて優しく揉み始めた。
「あ、れ……?」
「寝る前にマッサージして体の緊張をほぐしておけば、寝やすいんじゃないかと思ってな」
「リック様がマッサージして下さるんですか?」
「そうだ。レティだから特別にな」
「ありがとうございます」
「レティはマッサージより別の期待してたみたいだけどな」
「!」
「俺は別にそっちでも構わんぞ?運動になって疲れてよく眠れるだろ?」
肩を揉む手が少し止まり、大きな手の指先が頬に当たる。どきりとした。恐る恐るリックの顔を見ると、いつしか感じた狼のような瞳でニヤリと笑っている。
「マッサージよりもそっちがいいのか?」
「ちがっ!ちがちが!そ、そそそそういうわけじゃ」
顔を真っ赤にして頭を振り、慌てふためくレティを見て、リックは堪えきれずに笑い出した。慌てることがわかって言ったのだから、からかい甲斐があるというものだ。
「冗談だ。レティは本当可愛いな」
「またからかったんですかぁ」
ぷーっと頬を膨らませて居るところもまた愛らしい。
「俺は男だからそうしたいのも山々なんだが、それはレティがしっかり元気になってからな。……だから今夜はマッサージと致しましょう。姫」
ポンポンとレティの頭を撫でて、また肩から背中、腕とマッサージを再開した。
「レティは船内の事をよく手伝ってくれてるから、あまり肩は凝ってないな。ああ、そうだ。力入れすぎて痛かったりしたら言うんだぞ」
「いえ。とても気持ちいいです」
ふにゃんとした顔つきを見て、リラックスしているのがわかる。
(これで夢も見ないくらいに熟睡してくれるといいんだが)
リックは密かにそう思った。




