無意識の声13
「レティ、中へ入ろう」
「はい」
リックはレティの肩に手を添え、声をかけた。頷いて、レティはユリウスが消えた方向へ背を向ける。
ドアを開けて船内へ入ったところで、側の食堂のドアが開いた。
「お嬢ちゃん!」
顔を出したのは体格の良い料理長のジャン。仕込みをしていたのか、まだコックの帽子や白い服、エプロンを着けたままだ。
「もう具合はいいのかい?夕食の時は、忙しくて聞けなかったから気になってたもんで」
「はい。心配して頂けてありがとうございます」
「女の子は無理しちゃダメだよ。寝不足だって聞いたけど。目の下にちょっとクマがあるね」
ニコニコとしているレティの顔色を伺い、そしてジャンは手のひらの上に拳を下ろした。
「そうだ。二人とも、ちょっと中に」
(ジャンもレティの保護者みたいだな。まあ、年齢はそのくらい離れてるのか……)
ジャンの後ろについていきながら、リックは思った。
「座って待っててくださいよ」
レティもリックも向かい合って座った。テーブルに頬杖をつき、鼻歌を歌い始めた。
「楽しそうだな」
「ジャン様がこうして声をかけてくださる時は、いつも素敵なものを用意して下さってる時なんです」
「なるほど」
確かに三度の食事の時でも三時のおやつの時でも、ジャンがレティやユーシュテに声をかける時は他の船員とは違うものを渡す場合が多い。
「お待たせしました」
銀のトレーが二人の前に置かれる。そこに乗っていたのは、空のティーカップが二つ。それと茶葉が入った透明なティーポット、魔法瓶、小さな入れ物にミルクと……。
「リラックス作用のあるカモミールとオレンジフラワーをブレンドしたハーブティです。もちろんカフェインゼロ。ミルクと、こっちはハチミツ。体を温めればよく眠れるはず。魔法瓶にお湯を入れてますから、船長と一緒にどうぞ」
「いつもありがとうございます。ジャン様」
「気遣い助かる」
「礼には及びません。飲食でのサポートが我々の仕事ですから」
彼に礼を言い、レティがトレーを持とうとしたところを手で制してリックが持ち、食堂を後にした。隣を歩く彼女のペースに合わせ、ゆっくり歩く。レティの部屋近くの通路に来たところでリックが足を止めた。
「レティ、風呂まだだろう?焦らなくていいからゆっくり入ってこい。寝る前にこれを飲もう」
「はい」
レティは頷いて風呂の道具を取りに部屋へ戻った。




