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無意識の声12

「レティ、レティ。起きろ、大丈夫か?」


瞼がフルフルと揺れ、そして藍色の瞳がうっすらと姿を見せた。


「リック……様?」

「レティ」


意識がはっきりし、目の前にいるリックがひどく心配そうな顔をしていることに気がついた。リックの指が近づいてきて、レティは反射的に目を閉じた。優しく目の周りを撫でられ、目を開けた時にその指が濡れているのがわかり、そして自分が泣いて居たことに気がついた。


「私……」

「嫌な夢でも見たか?」

「……いえ、覚えてないんです」


恐らく、彼女の中の記憶が眠りを侵食して夢になっているのだろう。流石に寝ている間だけは、手が出せない。助けてやれないことをリックは悔しく思った。


「レティ、暫く俺の部屋で寝るといい。多分ここ最近良くない夢を見てるんだと思う。もし、俺が気がつけば起こしてやるから」

「ありがとうございます」


いつもは遠慮しがちなレティが、この時は素直に提案に応じた。


(レティの記憶について、早急に把握する必要があるな)


手を伸ばして華奢な体を抱きしめながら、リックは急ぎ目的地に向かおうと決意するのだった。








夜の外は日が照らないせいで、風が冷たく感じる。更にそこに冷気が混じる。カーディガンを着ていたのだが、レティは無意識に腕を寄せた。

髪とワンピースが風に煽られて、ふわふわ波打つ。


「レティ、寒いのか?中に入ってても良いんだぞ」


隣のリックがレティに気がついて、声をかけてくれるが頭を振った。


「少しの間ですから、大丈夫です。私もユリウス様をお見送りしたいので」


雪狼を呼び出したユリウスが、振り返る。


「レティ……」


タッ……。ユリウスがレティに話しかけようとしたのだが、それより前に雪狼が動いた。大きい体のままで勢いよく飛び込んだものだから、それを予測してなかったレティが支えきれずに尻餅をついてしまった。


「わっ」

「あ、コラっ!俺相手じゃないんだから急に飛びつくな」


ユリウスに叱られ、耳と尻尾を垂れてクンクンと鳴く。レティはその頭を撫でた。


「大丈夫ですよ。ユリウス様」


頭をスリスリとレティに擦り付けて、雪狼は甘える。

その様子を見守り、ユリウスが気持ちを代弁した。


「暫く会えなくなるのが寂しいんだろーな。レティに懐いてるから」

「また次に会った時に遊びましょう」


レティの言葉で嬉しそうに尻尾を振り、そしてリックにも同じように、頭を擦り付けて撫でられていた。


「帰るぞ」


雪狼は指示を聞いて離れ、ユリウスの隣へ歩いて行く。リックがレティへ手を差し出して、立ち上がる手助けをしてくれた。最後にユリウスは二人に向き合った。


「レティ、疲れてるみたいだから無理するなよ」

「はい」

「それから辛い時は我慢しないで、ちゃんとリック兄に甘えるんだぞ」

「はい」

「メシはちゃんとたくさん食えよ」

「はい」

「どこぞの母親みたいだな、お前」


レティは笑顔で頷いて聞いていたのだが、リックが笑いながらからかった。


「なっ!かーちゃんじゃねーよ!おっ、俺はっ、レティの……その、えーと、そーだ!兄ちゃんみたいなもんだからなっ!」

「わかったわかった、悪かったよ。レティを心配してくれてありがとな」

「リック兄はすぐ茶化すからな」


唇を尖らせ、ユリウスが赤い顔で言う。


「リック兄、レティのこと頼むな」

「わかってる」

「それじゃあ、また今度な」


雪狼にユリウスが跨り、そして夜空に遠吠えが響いた。その後、床を蹴って雪狼は暗い海へと飛び出して走っていった。


「ユリウス様!また会う時までお元気で!」


レティは両手を口に添え、精一杯の声を出す。耳のいい彼に届いたらしく、後ろ姿のまま片手が上がった。姿はすぐに光の届かない闇へ紛れていった。




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