無意識の声10
「カップやお皿が……!」
片付けるために持っていた皿、ソーサー、ティーカップが床に転がって割れたりヒビが入ったりしている。
「ジャン様、すみません!私落として」
「いやいやいやいや、食器類はまだあるからいいけど、お嬢ちゃんケガは?具合悪いんじゃないのかい?」
「ケガはないです……。体調も。それより片付けないと」
床についていた手に力を込め、立ち上がろうとして腰を上げた途端にまたよろめく。
「!?」
レティ自身驚いたようで、バランスを崩した体は咄嗟にリックが手を伸ばして支えた。
「レティ、もしかして眠いんじゃないか?」
「でも、私さっき起きたばっかりなのに」
頭がボーッとする。瞼も少し重い感じがした。
「船長、後片付けは危ないから自分達に任せてください。お嬢ちゃんがケガするといけないので、離れててください」
「悪いな。頼む」
ジャンとシェフ達で持ち寄った古紙や箒を手に、掃除を始めた。目がトロンとしているレティを見れば、睡魔が来ているのは明白だった。何回かゆっくり瞬きを繰り返した後、寝入ってしまう。
「よっ、と」
リックはレティを抱えて移動をする。
「ユリウス、掃除の邪魔になるから食事は終わりだ」
「わかってる」
フィルとユリウスはリックの後を追いかけた。
船長室まで移動をし、フィルがリックの為にドアを開けた。ベッドにレティは寝かされ、そしてリックはついてきた二人に体を向けた。
今は規則正しい寝息を立てて眠っているレティ。だが、寝かせる時に目の下にくまが少し出来ているのに気がついた。
「さっきの話だが」
「船長、俺は医者じゃないので確かなことは言えませんが、レティアーナさんは寝ていても体が休まってないんじゃないかと思ってます」
「なんか悩んでんのか?レティ」
詳しく話を聞かずとも、何となく状況を悟ったユリウスが口を挟む。リックは頭を振った。
「わからん。自分で何かを抱えてると意識すれば、一人で抱えずに誰かに話そうと努力はするようになってきた。ただ今回のことについては、引っ掛かりがある意識があるかが不明だ」
「本人がわかってなかったら、俺らにわかるわけねーじゃん」
「そうだ」
そこまで話したところで、ゴソゴソと布団の擦れる音がした。もう目が覚めたのかレティの手が動き、目を擦っている。
「レティ」
リックはベッドの側に行く。ゆっくり瞬きをしながら、藍色の瞳がリックを映す。
「私……」
「疲れが溜まってるみたいだぞ。無理しないで寝て休んでおけ」
前髪を後ろに流すように、優しくレティの頭を撫でた。 頷きながらも、少し迷いながら小さな声で話す。
「でも……私……」
「どうした?」
「よくわからないけど、最近寝るのが少し……怖いんです。何かがあるわけではないんです。ただ目が覚めた時、気分があまり良くなくて」
「後で医者に診てもらうか。今はとりあえず寝てていいぞ」
「はい。あの……」
全て言わなくても、何を求められているのかは分かる。
「俺はここにいる。だから安心してていい」
レティは頷いた。布団の中に入れようとした手が迷ったようにピクリと動いたので、しっかり握ってやる。
そしてまた眠りの世界へ身を委ねた。
(起きて何も覚えていないのに、どうして次に寝る時に怖いと思うのかしら……)




