無意識の声8
リック、ユリウス、レティの三人で皿に取ってきた食べ物や飲み物を口にしながらゆっくり話し、たまにユーシュテが船内と外を行き来して皿に山盛り食事を取って入るのを見かけた。
音楽サイドはライブが終わったらしく、サイン会まで始めていた。そうして時間はどのくらい経っただろうか。
空は暗くなって星空が瞬き、月と船に取り付けられた灯りがほの明るく甲板を照らし出していた。
「ふぁ……あふ」
「レティ、眠くなってきたか?」
口に手を当てて無意識に欠伸をしたところをしっかりリックに見られ、僅かに目が冴える。
「あっ、いえ……」
「目がトローンとしてる。俺たちに遠慮しないでいいから、無理しないで休んできていいぞ」
大好きな手がよしよしとレティの頭を撫でてくれる。
そう言ってくれるのは嬉しいのだが、恐らく今後暫く会えなくなりそうなユリウスと、もう少し話して居たいとも思った。
最初の頃に比べ、仲良くなれたのだから。そう思ってユリウスを見たら、視線があった。
「!」
少し驚いた顔をされてしまう。
「ユリウスは今夜、俺の部屋に泊めるから大丈夫だ。明日もまた話せるし、夜中もし目が覚めて寝られなければ俺の部屋に来たらいい」
「……はい」
(やっぱり、リック様には何もかもお見通しみたい)
レティはクスッと笑い、そして二人に向き合った。
「リック様、ユリウス様。お休みなさい。また明日」
「おう。お休み」
「お休み、レティ」
挨拶をして船内へ続くドアを開ける。静かな船内を歩きながら、そう言えばまだ風呂に入って居ないことを思い出したが、酷く眠気が襲って来て居て明日の朝入ろうと決めて自室へ向かった。
寝巻きに着替え、髪に櫛を入れてベッドへ潜り込む。すぐに深い眠りへ落ちて行った。
意識は暗く沈んでいく。
(あ……、誰かが話している……?)
眠りの中で何故かそう思った。酷く悲しい気持ちにもなる。
『ダメよ。もうここには居られないわ。だって、だってここはもう……』
聞き覚えがあるようなないような、そんな女の声とそれに答える男の声。声が話すのが何のことなのかは全くわからずにいた。
「……」
レティの目が薄っすら開く。そして緩慢な動作で上半身を起こした。ベッドの脇に脱いでいたスリッパに足を入れ、ドアを開けたところで声がかかった。
「あれ?レティアーナさん?」
「!」
隣の部屋を開けようとしていた、フィルが此方を見ている。彼は風呂上がりなのか、首にタオルを掛けて上下ストライプの柄の寝巻きを着ている。寝ぼけていた意識が少しはっきりした。
「どうしたんです?こんな夜中に。二時過ぎてますよ?眠れないんですか?」
「いえ、たまたま目が覚めたので……食堂でお水貰ってこようかと」
「僕が取って来ましょうか?」
「お気遣いありがとうございます。大丈夫ですよ。寝るところだったんでしょう?お休みなさい」
「……お休みなさい」
挨拶を告げ、ゆっくりとした足どりでレティは食堂に向かった。その背中を見送りつつ自室のドアを開けながら、フィルは考えていた。
(レティアーナさん、確か昨日もその前もこの時間に起きてたような……。寝ぼけてたみたいだけど)




