無意識の声5
「……」
リックは答えず、レティ達に背を向けて真剣な表情で海を見ている。
チリ……。空気に張り詰めたわずかな振動というか、そういったものを感じたその時。
パシッ!リックは急に向きを変え、レティとユーシュテの手を取って引き寄せた。
「え?リック様!?」
「ちょっ……!リチャード!?何が」
レティを右手に抱き、ユーシュテの腰に手を回して左で抱える。そのまま床を蹴って跳んだ。
と同時に、レティ達のいた所に、バチン!と何かが弾けて当たった。
「今のって……」
青白い光の線を見たユーシュテが呟く。そして声がした。
「そう……。何を隠そう」
バシャアアアン!!海の中から大きな水飛沫が上がる。
「俺だ――!!!」
「きゃ――!」
驚いたレティが悲鳴をあげる。そこにはヒレをゆっくり動かし、宙に浮いたシビレエイとその上に膝をついてマイクを持った男。ルーファスがいた。
「きっ、昨日の今日で何しにきたのよ、アンタ!しかもリチャードに負けたんでしょーが!」
リックに抱えられたまま、ユーシュテが目を三角にし、両腕を振ってギャンギャン言う。
「まあ、待てよ」
手を前に出し、ルーファスが言った。
「俺も男だし、みっともない真似はしねぇ。負けた船に実力も変わらねぇうちに、またケンカふっかけたりしねーよ」
「……」
リックは静かに話を聞いている。
「用があるのはお前だ、お前。リチャード・ローレンス」
ルーファスは不躾にリックに指を向けた。
「そんな話信じると思うの!呼び出して近くに寄ってきたら、襲いかかるんじゃないの?」
「――ユーシュテ。心配して貰えるのは助かるが、少し静かにしててくれ」
「ぶぅうー」
敵意がないと判断したのか、リックはユーシュテとレティを降ろした。ユーシュテは不服そうに口を尖らせ、腕を組んでいる。
「ま、俺を信用できないってなら、戦えない奴は安全な所に置いとくんだな」
「レティ。戦いにはならないから安全だが、万一の為に部屋に戻っていてくれ」
「は、はい……」
後ろを振り返りながら、レティは船内に入った。ユーシュテはその場に残る。
(リック様、本当に大丈夫かな?見張りの警告鳴らなかったし……。リック様が外に出てきてるの、わかってたからだと思うけど)
「話はレティのことか」
レティの足音が聞こえなくなった頃、リックがルーファスに向かって歩きながら口を開いた。
「そうだ。俺がここを奇襲したのは、たまたま拾った号外から『楽園の女神』がいると睨んだからだ。だが実際に目にして見て、あれが本当にそうなのか疑った」
「本人は違うと言っている」
「俺もそれは聞いた。まあだがその存在が実際どう言うものか、まだ世界の誰も知らねぇ。ただ、あの女は明らかに何かを隠し持ってる。お前がそれを把握してるかしてないかは知らんが」
倒れる船員の後ろの方で、乱れる髪の合間から彼女と視線が絡んだ時。
「あのなりからは想像できない殺気が一瞬感じられた。その後俺の攻撃を受けて、すぐに消えたがな。あいつは何なんだ?」




