無意識の声3
話が終わり、ディノスと付き添うユーシュテは医務室へと戻っていった。
彼の部屋で疲れを癒すため、レティは静かに寝ている。夢すら見ない深い眠りの中。真っ暗な中で声を聞いた。
『――!!』
上手く聞き取れないが、そこから感じるのは焦り、怒り、悲しみ。女の声だというのはわかる。
『だって!私の――!!』
寝たままレティの眉が寄る。
「……う」
書庫に本を戻し、電気を消してリックは自室のドアを開けた。そこで小さな声を聞く。
「……うぅっ。……ん」
「!」
足早にベッドの側に行くと、苦しげな表情のレティが居た。
「レティ、レティ……!」
ゆっくり寝かせてやりたいのは山々だが、そっと布団越しに体を揺すった。
「レティ、大丈夫か?」
「……ん」
瞼が動き、藍色の瞳が姿を見せた。ぼやぼやとしていた景色が、瞬きごとにはっきりして行く。
「リック……様?」
「起こして悪かった。悪い夢でも見たのかうなされていたから」
「そ、……ですか?」
ムニムニ瞼をこすりながら、レティは半身を起こした。
(そういえば何か気持ちが重いかも……)
胸に手を当てる。その様子を見たリックが少し眉を寄せた。
「具合、悪いのか?」
「いえ、それはないです。大丈夫ですよ」
レティはにこっと笑って、すぐにいつもの様子に戻った。両手を上にあげて伸びをする。
「皆さんの様子はどうだったのでしょう?私また、途中で寝てしまったのですよね?」
「ケガ人はいるが、重傷者や死者はいない。大丈夫だ」
「良かったです。一緒にいてくださった方や駆けつけてくださった方が必死に守ろうとして下さいましたが、あの方の攻撃をどう防いでいいのかもわからず……。リック様が居なくてすごく心細くて」
「戻るのが遅れてすまなかった」
あまり考えもせずに話して居て、レティはハッとした。
「ご、ごめんなさい。リック様を責めるとか、そういうつもりじゃなかったんです」
「わかってるさ」
リックはベッドの端に腰を下ろす。そして手を伸ばし、レティの体を抱き寄せた。
「だがレティも怖い思いをしたんだろう」
澄み渡る青空、広がる海。それなのに遠くから見えた青白い光。リックが船の様子を見た時、明らかにレティはルーファスによって捕まって居た。 タイミングが悪いとはいえ、レティを苦しめてしまったのだから。
頭を撫でられ、レティは目を閉じた。
いつ戻るかもわからないリック。自分の答えに納得してくれず、その為に船に襲いかかる攻撃。
「ほ、ホントは……その」
レティは言葉を詰まらせる。暫く経って、漸くまた言葉を紡いだ。酷く困惑したり傷ついたりした時に我慢する癖があり、迷う為にどうしても口に出すまでに時間がかかる。
こうして焦らずに待っていれば、彼女は気持ちを吐き出せる。
「……怖かった、です」
「もう、大丈夫だから」
思い出したこと、その緊張がリックに預けられて解けたこともあり、閉じられた目から雫が落ちた。
「ダメですね。私。もっと心を強くいたいのに……。ほんの少しだけこのままで、居させて下さい」
「レティは強くなくてもいいさ。そのままがいいと俺が思ってる。皆でよく頑張ったな」
どれだけ傷ついても、リックが全部気づいてわかって受け入れてくれる。共有してくれる。
(私もこんな安心をリック様に返していけたら)
レティは彼の優しさに甘えながら、そっとこんなことを思うのだった。




