無意識の声2
ユーシュテがディノスから手を放し、船長室のドアを開ける。リックは中に入り、レティをそっとベッドへ降ろし、体を支えて靴を脱がせた。それから横たわらせ、布団をかける。
「座ってくれ」
リックは真紅のジャケットを脱いで机の側の椅子に掛け、それからテーブルを挟んで向かいあったソファへ移動する。
ユーシュテとディノスは書庫側、リックはベッド側へ座った。そして、アルから聞いた話を二人へ話した。
「成る程。楽園の女神に関する情報にパスが……」
静かに聞いていたディノスが顎に手を当て、頷いた。
「ああ。レティの力やその他に関しては本人も含め、不明な部分が多い」
「その他って、事故みたいに育った島に流れ着いたこと?」
「それもあるし、出生のことも」
「「え?」」
ユーシュテとディノスの声が重なった。リックは少しベッドの方を振り返る。レティがまだ寝ていることを確認し、声を更に潜めて話し始めた。
「話してなかったか?レティの両親は何らかの理由で、自分達の生まれ故郷の友達――つまり酒場のマスターへ預けようとした」
「それはリチャード。貴方からも本人からも聞いたわよ。そのマスターと行き違いになってる間に、変態の虐待男がトラウマ作ったんでしょ?」
「そうだ。レティはその両親が本当の親だと思っているが……。マスターの話だと、その両親のどちらとも血の繋がった子ではないらしい」
「!」
話を聞いた二人の目が大きく開く。そしてお互いに顔を見て、どちらも初耳だというのがわかった。
「リック、流石にその話は聞いてないぞ」
「すまん。悪い。話したつもりでいた」
リックは顔の前に片手を立て、詫びた。
「え、何?じゃあレティを産んだ親は誰なのかわかんないって事なの?」
「そういうことになる」
「どこで誰から産まれてきたのか、何故あんな力を持っているのか、何のために力があるのか。レティ、わかんないことだらけじゃないの」
「そうだ。それで、レティがかつて住んでいた場所を探していたんだ。レティをこの船に乗せたきっかけで、望みでもあるから。その可能性があるのが『スカイ・アリエス』だそうだ」
「何か名前だけは聞いたことがあるような」
人差し指で唇をツンツンとつつきながら、ユーシュテが言う。ディノスが説明をした。
「昔の痕跡がよく見つかったりして学者の好む場所で、本来ならそう目立つ土地ではないんだが、その島の名が広がるのは別の呼ばれ方があるからだ」
「別って?」
「『始まりの島』」
リックが先に答えを言い、ユーシュテが聞き覚えのある言葉に驚く。しかしその先がまだあった。ディノスが続ける。
「それだけじゃない。その島には古くからある、とてつもない大木があって、それがシンボルでもある。故に、『天空の島』だとか『神に一番近い島』とも言われているそうだ。そう言うわけで、その島をモデルにした神話や物語もある」
「リチャードは、そこにレティが住んでたと思うの?」
「それはまだ確証がない。ただ科学者の言葉もあるし、今の所レティに結びつきそうな場所はそれしかない」
「行くのね。そこへ」
「ああ。何かが見つかればいいが、見つからなくても構わない。それが冒険てものだろ?」
リックは心底楽しそうに笑った。
行くこと、見ることに意味や楽しさがある。愛するレティや、仲間達と新たな発見をして行く。それが人と外れた生活を選んでいる理由でもあるのだから。




