船に隠された不思議な秘密2
「ジャグジーを知らないのか?」
「ジャグジー?」
レティは頭を振った。通路の薄明かりに照らされた藍の目が、キラキラしていてウキウキと輝き揺れている。
(こんな顔が出来るなら、島から出して良かったな)
リックは確信を得た。
「ああやって泡を出す装置があるんだ。それで凝ったり疲れたりした場所に当てると気持ちいいんだ。コックとか狭い場所で長時間同じ格好で立ってたりするから、いいんじゃないか?」
「皆さんに優しい作りなんですね。他の海賊船もこんな感じなんでしょうか?」
「さあなぁ」
他の船に踏み込んだことはあるが、隅々まで見て回るわけではない。
と言うよりも海賊船同士が鉢合わせになるということは、それは戦いでそんな暇は無いのだ。
そもそも海賊とか賊と呼ばれる団体は、法律に乗っ取り認められた集団ではない。
世界からしてみれば立派な犯罪組織だ。だから賊なのだ。捕まれば監獄に入れられる、そんな存在。
先日海賊から酷い目に遭っておきながらそれを少し忘れて、海賊の定義がずれてそうなレティは「他の船も見てみたい」と言い出しそうだ。
「レティ、海賊は豪華客船じゃないからな。だから、他の海賊船に興味を持つのはやめておいた方が利口だな」
「そうなんですかぁ」
先回りして言えば、自分の考え通りのことが彼女の頭にあったらしく、少ししょんぼりとしたところが笑える。
同時に今は無垢なものだけで出来ている彼女が、この先経験するもので汚してしまうこともあるだろうということが、多少心を痛め付けた。
出来る限り多くの無垢な部分を残してやりたいと思うリックだった。
腰から手を離して、しょんぼりとしたレティの頭を撫でてやりながら、着いた自室のドアを開けた。
「さあ。机の側にコンセントがあるから、髪を乾かすんだ」
「はい」
透明なテーブルの両側にある赤いソファ。そこにレティの鞄がある。
座って中身を見ていた彼女が声をあげた。
「あ……っ」
「どうした?」
「ドライヤーを持ってきたと思ってたのになくって。……あ」
最後に使ったのはいつだったか記憶をたどったら、すぐに分かった。
あの時バッグにいれる前に、リックに担ぎ上げられてそのまま出てきてしまったのだ。その後バッグに入れた記憶はない。
「あ、机の……上に置いてきて……?」
「ああ、そうか」
リックも思い出して納得がいった。
(俺のせいか)




