【ラグナロク小話】王様ゲーム2
「当りを引いて王様になった人の指示っつーか命令を、一個だけ聞くって言うゲーム。例えば掃除当番一回分代われとか、好きな子の名前を言えとかそんな感じ」
「へーえ」
クルーが説明を訂正し、レティは頷いた。
「面白そうですね。何でも良いんですか?」
「大抵のことは許されるよ」
「そうなんですかぁ。例えば逆立ちして欲しいとか?」
「アリアリ。良かったらレティアーナちゃんもやる?もちろんユーシュテさんも一緒に」
興味津々なレティを見て、誘ってくれた。
「良いんですか?やってみたいです!」
「良いわ。それ、乗りましょう」
ワクワク楽しそうなレティの横で、ユーシュテが悪どい顔をして笑む。何かを企んでいるような、そんな顔だった。
「そしたら増えた分準備を」
「ちょぉおおっと待ったぁああっっ!!!」
バンと勢いよく食堂のドアが開いた。レティが驚いて再び肩を跳ね上がらせた。
「戦いで蹴落としながら王座を奪い合うゲームなんて、参加せずにいられるか!!」
「解釈が違ってますよ、マスター」
レティ達も入ってきた外側のそこには、ユリウスとセリオがいる。
突っ込まれても、ユリウスは聞いていないようだ。
「また来たの!?他所の船に軽々しく入らないで頂戴。普通だったら戦闘よ。何の用なのよ」
ユーシュテが呆れ顔で言う。するとセリオがこちらへ歩いてきた。進みながら途中で大人の姿へと変わる。黒い袖から出た手がレティの手を取る。
「愛しい人に逢いに。貴女を思うといてもたってもいられなくて。この気持ち、どう責任取ってくれますか?」
上半身を屈めてレティの手の甲へ唇を乗せる。わざと離すときにリップ音をさせ、上目使いに銀の前髪の間から赤い目を覗かせる。
「えっ、あの……こ、困ります」
真っ赤になったレティが、ドキドキしてしどろもどろになってしまう。
セリオのこの姿は見慣れず、どうしても緊張してしまう。
「困っていい。今宵、貴女を連れ去っても良いですか?」
「――っ!」
手を引いて抱きよせ、顔を近づけたらレティが目を閉じて顔を反らす。
「おいっ!セリオいい加減にしろよっ!」
「でも、私にはリック様が……っ」
何処からどう突っ込めばいいのか。クルーは唖然としていたが、ユーシュテの堪忍袋はブチリと音を立てて千切れた。
ユリウスが止めると同時に、息を吸い込んで大声を出す。
「きゃ――ッッッ!エロガキにレティが連れてかれる――!!!」
ダダダダダダ……。すぐに廊下を走ってくる足音がした。
「レティ!」
再び荒々しく開いたドアの原因は勿論。
「リック様!」
驚いたレティだったが、彼女は銀髪の後ろ姿の向こうから顔を覗かせている。
そしてユーシュテが指で「こいつこいつ」と示していた。
「セーリーオぉおおおおっ!!!」
「やばっ!リック兄がマジギレしてる!わぁーっ」
ユリウスは両手を上に上げた。
リックは剣を抜いて瞬時にセリオに斬りかかった。
セリオはレティから離れ、リックの振り下ろした刃を手で挟んで受け止める。
「今何してた……」
「嫌だなぁ。別に誰が彼女にアプローチしようと自由じゃないですか?」
「自由なわけがあるかっ!」
「じゃあここで勝負をつけますか?勝った方の言い分を通すと言うことで」
「いい度胸じゃねぇか?」
二人の周りだけ地鳴りでもしそうな険悪な雰囲気で、見ているメンバーが後退りを始めた。




