【ラグナロク小話】歌姫さんの悪気ない疑問3
「この子ったら、この歳で子どもは『こうの鳥が運んでくる』なんて言うんだもの。図書館に連れて行って、教育したのよ。その時に見せた本にあった受精の写真のこと、確かあの時『卵にヒゲが生えてる』みたいに言ってたわ」
「じゃあ、レティアーナが知りたいのは……」
「要するに、あたしが精子は男から貰うって言ったから、それをどうやってって疑問でしょ」
「ちょっっと待て!」
リックはテーブルに手をついた。
「それを説明させんのか!誰に!」
「あんた以外に誰がいるのよ、リチャード。何であたしが言わなきゃいけないの。あの時は人目があったし、口で説明なんかしにくいじゃない。だから貴方に聞いてって言ったの」
「……」
ズーンという効果音が付きそうなほど、リックは膝の上に肘をついて項垂れた。
「リック様。私、何かいけなかったですか?」
「いや……」
確かに口で説明しにくい上に、絵にも描けず。レティとリックの間は、まだまだ実践の段階でもない。
どうするか考えが浮かばず、リックは白く石化しかけていた。
見かねたディノスが助け船を出す。
「レティアーナ。この事に関しては話を聞くより、経験で学んだ方が早いかもしれない。ただ、すぐではなく、この先のたくさん重ねた時間の先にわかることだと思う」
「そうなんですか。じゃあ、その時を楽しみに待つことにします!」
レティは素直に納得したようだ。
「た……助かった……。すまん」
リックは項垂れたまま、ディノスに感謝の言葉を出した。ユーシュテがしゃがみ、リックに囁いた。
「あんたも気苦労が絶えないわね。いろんな意味で」
「まあな……」
はぁ……とレティに気づかれないように小さくため息をつくのだった。
夜。食堂から持ち込んだ飲み物を片手に持って、甲板から夜の空に浮かぶ星をリックとレティは見つめていた。
「レティ」
「はい」
上に上がっていた視線が、リックに移る。
「昼間の疑問……。レティがいつか本当に望んだときに、な……」
「あ、はい……」
「レティがこれから、たくさんの愛し合うという意味を今まで以上に理解したときにきっと分かる」
「はい」
レティは優しく笑って頷いた。リックは自分とレティのカップを縁に置いて、彼女の背中に手を回した。小さな手がリックのシャツを掴む。
レティの藍色の瞳がリックを見上げたときに、身を屈めてふっくらした唇に自分のそれをくっつけた。
今は唇だけから注がれるこの熱く焦がれるような愛情が、いつかは彼女の体の中も外も埋め尽くしますように。切なる願いを込めて。




