リックの不在13
無意識に手を握り合わせ、それが小刻みに揺れる。胸の音は激しさを増し、足も歩けるのかどうか疑うほどに強張って。
「レティアーナさんは守ります。船長ほど圧倒的な力はないけど、でもそれなりに戦いもこなしてきてるつもりだから」
フィルの同室であり、当番の相方グレスがいつの間にか武器を持ってきて放る。それを片手で受け取り、鞘から剣を抜いた。 少し此方を振り向いたフィルの顔は、やはりどこか幼く感じるのに凛々しかった。
「私は皆さんを信じます。いつもこう言う危険な場面を任せてしまってばかり。でもずっと逃げ隠れしておくわけには、……きっといかないんです」
レティは目の前の背中に応えた。
金属の混じり合う音。鬼気迫る声。多少なりとも流れる血。
怖いし目を背けたくなる光景。だが戦う力は皆無だとしても、渦中に置かれてしまったからにはできることをしなければならない。
前方のリックは一人、ルーファスと向き合っていた。
敵の狙いであるレティが、ルーファスの視野にいること。 仲間の傷つく戦いを見慣れていない上、彼女の揺れ動く精神状態が、未だ知り得ぬ力に影響を与えてしまうこと。様々な意味で、この戦闘を長引かせるわけにいかなかった。
「鳴り響け!」
ルーファスが弦を弾く。エイが光り、彼らの周りに音符や符号が現れる。リックは走り、船縁から風の力を借りて跳び、剣を振り下ろす。予想通りギターで受け止められ、弾き返される。身を翻してまた甲板へ着地した。
「弾けろロック!」
浮かんだ音符達が船へ向かって流星のように流れていく。リックが左手を上から下へ翳し、風で防壁を張る。ぶつかった音符たちが爆発を起こした。
バラバラとそれらが散らばり、それで終わるかと思いきや。
チリ……バリバリバリバリ!それらから電流が放たれた。すぐにリックが防壁を崩して風の形を変え、音符を巻き込んで風に電流を纏わせた。竜巻のような螺旋の風をルーファスに向かって放った。
「おっとぉ!」
ギターを盾代わりにし、風を受け止める。刃物のような鋭さを持ったそれが多少であるが、服を傷つけた。
「!」
ルーファスの目が見開かれる。
「こっ!この服!高かったんだぞ!テメー、よくもやりやがったなぁ!!」
彼の怒りに呼応してエイが目を光らせ、雷鳴が轟く。稲妻が走り、落雷が船や船員を敵味方関係なく襲う。
「ルーファス船長!やめてくれぇー!」
「うわああ!」
「ギャー!」
リックは少し振り返り、船上の混乱を目にして上に手を向けた。レティはフィルが自分を盾にするように、抱え込んで守っていた。ユーシュテも隅に寄っている。
「鳳凰!船を守れ!」
キィイイイイ!高く鳳凰が鳴いて、美しい羽を上下させる。生まれた風が船を駆け抜け、丸く半円のドームを作る。落雷が来たら自動的にいなして弾く。
「お前!いい加減にしろ!自分の仲間たちまで危険に晒すなんてとんでもないぞ」
「っせえ!」
リックの言葉は全く耳に入らず、怒りに囚われている。目を覚まさせる為、再度彼に向かって剣を下ろすものの、スピーカーが現れて音波でリックを弾き返す。
怒りのオーラが雷を纏い、そして彼自身に雷の柱の落雷が落ちる。そのままルーファスが走って突っ込んできた。龍の形になり、リック目掛けて。
「リック様ぁっ!」
レティはクルーの肩越しに手を伸ばす。




