船に隠された不思議な秘密
「お、お待たせしました……っ」
レティは浴場のドアを開けた。少し離れたところにリックが立っている。
「ああ、行こう」
「はいっ」
ドアを静かに閉めて、リックを追う。
レティが船内で迷子にならないように、連れてきて出てくるまで待っていたのだ。
「鉢合わせになったら困るから、『使用中』の札か印になるようなものを作らないとな」
「あ、はい……」
そのこと以外に、レティにはとある疑問があった。
この船のことはまだ全然分からないが、脱衣所にタオルやバスタオルは積み上げてあるのに、ドライヤーもコンセントも無い。
なのでタオルで拭いた髪から残る水滴が落ちないように、持ってきていた自分のタオルを肩に掛けて出たのだが。
「リック様、リック様」
「ん?」
「この船に、女性の方はいらっしゃるのですか?」
コンセントが無いということはドライヤーが使えない。
髪を乾かす必要性があまりないということだろうか?
「ああ。そうだな……人間の女はレティが初めてだな」
「そうなんですね」
人間の女……珍しい言い方だと感じた。ただ、いるかいないかを普通なら答えるのに。
こんな大きな船だから、誰かペットを飼っていてそれが『メス』ならいるかもしれない。
そう解釈したレティだった。
「脱衣所にコンセントをつけるか。冬にそのまま廊下を歩いたら、風邪引くな。俺の部屋にあるから、今はそこで乾かせばいい」
誰も通らないのでリックは手を後ろに向けてレティの腰を掴み、軽く引き寄せて隣で歩かせた。
「はいっ。ありがとうございます」
(リック様には私の考えがすぐに見抜かれてしまうみたい)
嬉しくて顔を綻ばせた。
「私、あんな素敵なお風呂、初めて入りました……っ。とってもとっても感動しました」
二十人くらいが一気に入っても余裕があるような広さだった。壁にシャワーが幾つもあったし、バスタブも。
張ってあるお湯は入浴剤が入っており、中心にあった石造りの大きな鳥の口からそれが流れ込んで循環していた。
浴槽内に腰を落ち着けたらブクブクと泡が出てきたのには驚いて、小さく悲鳴をあげてしまった。
通路で壁に背を預けて待っていたリックには、「わぁっ」「すごい」「素敵」というレティの響く呟きが全部聞こえてきていたので笑った。
「あれは何の鳥なのですか?」
「鳳凰という大きな鳥だ」
「鳳凰……。初めて聞きました」
「幻の怪鳥だ。運が良ければ……その内見られるかな」
「本当ですか?ワクワクします。あ、あとですね、あのブクブクした泡が吹き出てきたのは……」




