リックの不在6
「船内に置いてある受話器は、船内にのみ通じている。外部とは通じてないんだ。だからここのクルーが電話を使うときは、島に着いたときだな。……普段外とそんなに連絡を頻繁にとることもないし、そういう設備を設置するにも手間がかかる。それにまあ、盗聴されないようにな」
「ととっ、盗聴!?」
「だってあたし達一応犯罪組織ですからね。保安組織から盗聴されて、居場所バレたら面倒だってことでしょ?」
「そういうことだな」
驚くレティにユーシュテは言い、ディノスが頷いた。
「そういうわけでレティアーナ、朝ご飯に行くぞ」
「あっ、はい!」
リックの部屋を出て行くディノスを、部屋を振り返りつつレティは追いかけた。
(リック様、島につくのを待たずにお出かけになるということは、急用か何かあったのでしょうか……?)
レティに合わせてゆっくり歩いてくれるディノスの後をついていき、そしてふと顔を上げた。
「あ、あの、ディノス様」
「何だろうか?」
ディノスが立ち止まり、こちらに少し体を向ける。
「火傷のお加減は……」
まだあの戦いで負った深手は、残っているはずだ。
「それはねぇー」
「ユース」
ジロリとディノスから視線を向けられるユーシュテ。彼を怖がる者も多い普通の船員ならば怯む所だが、流石彼女は気にしないようだ。
「隠すようなことでもないし、良いじゃないの。どうせ貴方の事だから、方便でも嘘つくつもりないんでしょ」
「……」
足と腕を組み、 ユーシュテは言う。ディノスは明らかに嫌そうな顔をしていたが、彼女は丸無視で話した。
「リチャードが留守になるから、強力な鎮痛剤打ってもらったのよ。それで多少動けるってわけ。リチャードも急いで帰ってくるつもりだと思うけど、それでも一時間や二時間とは行かないでしょうからね」
「それは大丈夫なんですか……?」
案の定、心配ハラハラという表情のレティを見て、ディノスも説明を加える。
「薬が切れた時に酷い眠気があったり、あとは他の鎮痛剤があまり効かないように感じることもあるらしいが……。リックが戻ったら安静にしておくつもりだ。心配かけてすまないな」
「すまないなんてそんな……。私はいつも心配することくらいしか出来ないから」
お腹の上で両手を握りしめて俯きかけた時、明るい声がした。
「そんなこともないでしょっ。貴女は貴女が思っている以上に、たくさんの力を皆にくれているわ、レティ。誰にも成し得ない貴女だけの力があるのよ」
レティは顔を上げ、両手を伸ばしてユーシュテをそっと包んだ。
「ありがとう、ユースちゃん。嬉しい。大好き!」
「当然でしょっ。あたしお腹空いたぁー」
手の上でユーシュテがパタパタと足を動かす。
「ユースが暴れる前に食堂に行くとしよう」
「そうですね」
クスクスと笑いながら、ディノスとレティは再び通路を歩き出した。




