リックの不在5
「ひとまず、始まりの島のことをリック達に教えよう。そこがレティアーナの故郷になるかはわからないけど、何かヒントがそこにあるかもしれない。俺たちは、始まりの島や楽園の女神に関することを調べてみるとしよう」
「わかりましたわ」
チェルシアは快く頷いた。普段のらりくらりとしているアルには珍しく、難しい顔をしている。
「何だろう……。何か胸騒ぎがするんだ。ただの勘違いならいいけど」
『私はお役御免と言うことで宜しいですかね?』
「お力添えを頂き、ありがとうございましたわ。お疲れ様です」
『私をすぐここから出して頂ければ、その情報収集とやらに力を貸しますがね。役立つと思いますよ』
「それはあり得ませんわ。罪は罪、今回のことは今回のこと。ご自身がなさったことの責任は、きちんと償って頂きますことよ。私の侍女も被害者ですから」
はっきりとチェルシアはカナラスに告げる。
『王女殿下は真面目であられる。冗談ですよ。セキュリティが邪魔しないように、アクセスの跡は辿られないようにしておきますよ』
受話器の向こうで笑い声が聞こえた。その後、通話は切られる。チェルシアはパソコンの画面をトップへ戻し、ため息をついた。
「ああ言うところが無ければ、もう少しマシな印象になりますでしょうに。彼」
「あはは。まあ、そうだね」
ゲンナリと言った表情の従妹を見て、アルは肩を竦めて笑った。
タン、タン、タン……。
「うーん」
人差し指を顎にちょんと乗せ、レティはリックの部屋の前の階段を降りた。時刻は丁度午前七時半少し前。だいたいこの時間前後に朝風呂からリックが戻ってくるので、どちらかが声をかけて一緒に食堂へ行くのは日課になっていた。
(昨日のユースちゃん、少し様子がおかしかったような……?)
昨晩、レティに抱きついてきた彼女は、何故かいつもの強気な感じがなく、何か不安のようなものをのぞかせていたような気がする。
コンコン。そんなことを考えながら軽くノックをした。毎度なぜか訪れたことがわかってしまうので、ノックをすると同時か或いはその前に、彼が部屋にいればレティを呼ぶ声がするのだが。
「……?」
シン……。静かなままなので、レティはドアを開けた。
(リック様、戻られてない……?)
二つのソファの間に置かれたテーブルに白いものを見つけ、レティは歩いてそれをとる。そこにはリックの文字で『レティへ』と書かれた紙があった。
その時、部屋のノック音がして振り返る。ドアが開き、ディノスが姿を見せた。
「やはりここだったか。レティアーナ」
「ディノス様……?あっ、おはようございます」
慌てて体を彼の方に向け、挨拶をする。
「おはよう」
「おはよぉー、レティ」
ディノスの肩に座って足をぶらぶらさせていたユーシュテも、片手を上げて挨拶をしてくれる。
今のユーシュテは、至って何時もと変わらないようだ。
(気の所為だったかな?)
ホッと安堵の息をしたところで、ディノスが口を開いた。
「リックなら不在だ。少し外出すると早朝に連絡が入った」
「……そうみたいですね。書き置きが」
レティは持っていた紙を二人に見せた。そこには用があって出かけるがすぐ戻るということが書かれていたのだ。
「リチャード、何しに行ったの?」
「近くの島に電話しに行った。そのくらいの用事だからすぐ戻る」
「電話……?」
レティはリックの机を見た。確かそこには固定の受話器がある。ふと抱いた疑問を口に出す前に、ディノスが説明をした。




