リックの不在3
「私の権限では見られないということですの!?」
色々入れ込んではいるようだが、パスワードアンマッチで弾かれてしまう。チェルシアは頭を項垂れさせた。
「知人からの頼みという程度では恐らく書類が通りませんわね。となると……」
「何か手立てが?」
「アレックス兄様。電話をお借りできますかしら?」
「ああ。構わないよ」
貸し戻しの受付にいた司書の所へ行き、アルはコードレスホンを持ってきた。
チェルシアはパソコンの別画面を開き、連絡先を検索する。そしてダイヤルを押した。
「ちょ、ちょっと、シア。ここって……」
ぎょっとするアルをよそに、チェルシアは繋がった先に告げる。
「――につないで欲しいですの。突然ですけれど。それとパソコンも用意してくださいな」
『えっ!あ、いやそれはあの、いくら王女殿下であっても』
「責任は私が取ります。必要ならば、後で国王陛下にも全てお話ししますわ。今すぐ連れてきてくださいませ」
静かに、しかし有無を言わせない口調で言う。
「シア、流石にこれはマズイんじゃ……。僕が怒られる分には構わないけど」
「連れてきてくださるそうですわ」
アルが腰を屈めて囁くと、けろりとチェルシアは言った。
「マジ……?」
「私も多少なりと興味がありますもの」
真面目な顔で幼い王女が言う。
「『楽園の女神』と言うのは、私も齧ったくらいには聞いたことがありますわ。国がその力を保有すれば、金銭にしろ軍事力にしろ多大な力となることは間違いないでしょう。仮に我が国がその情報を手に入れているとしたら、何故動かないのです?」
「たっ、確かに……」
「単なる伝承や噂だと思っているのなら、情報に鍵をかける必要などありませんし。でしたら何のための情報でしょう。それに」
言葉が途切れた。電話が繋がったらしい。
「突然お呼び立てして申し訳ありませんわ」
『王女殿下ともあろうお方が、何故私などに?』
「貴方にお願いしたいことがありますの。貴方なら、きっとできるのではないかと思いましてよ」
『いきなりですね。正式な手続きも踏まず、どんな良からぬ企みですか?』
電話の相手は面白おかしげに笑う。嫌味はあるものの、拒否する気配はない。
『困るんですよ。私が今どういう立場かご存じでしょうに』
「今回のことは私が責任を持ちます。貴方に更なる罪を背負わせるつもりはありません。カナラス様」
行き過ぎた研究から人体実験に手を出し、国の若い娘を幽閉した犯罪者。
「聞くところによれば、貴方は楽園の女神の情報を、一般が知るより多く持っていますわね?どうやってその情報を得たのです?」
『こりゃ参りましたね』
「今から私が言うワードを検索して頂きたいですの。そこに鍵のかかった情報がありましてよ」
チェルシアはワードを述べ、ロックのかけられたアドレスを指示した。カナラスは言われた通りにキーを叩く。
『ほう。成る程。そこを解錠せよと』
「もちろん、できますでしょ?」
『どうかな』
そう言いながら、骨ばった長い指はたくさんのウインドウを開きながらロックを外していく。




