覚醒の片影12
「いやん。レティったら、ついにリチャードの体を見たわけね?」
口に手を当て、ユーシュテがリックを見ながらニヤニヤと笑う。レティ達の関係の進み具合はよく知っていたが、敢えてリックに挑発をかけた。
「おまっ、ここでそれを……」
「グレードアップしたちっぱいを晒したわけね?」
「やかましい!ちっぱい言うなっ!」
「だから気安く触らないでよっ!」
黙らせようとしたリックの腕を、ユーシュテが掴む。お互いに睨み合い、手を出しては弾きを繰り返し、最終的には、両者とも頬をつねりあっていた。
「ディノス、お前っ」
「すまん。今のは失言だった。ユース、いい加減にしろ」
リックに睨まれ、ディノスはため息をついた。
「話を戻すが……。レティアーナやユースに代わって俺たちが傷つけば済むなら、それに越したことはない。寧ろそういう覚悟も無いのに、船に入れたりはしない」
「ディノスの言う通りだぞ、レティ。島で暮らしていた頃のように、何でも一人で抱えて戦う必要は無い。俺たちもいるし、ユリウス達もいる。みんなで守り戦っていく。だから頼ってもらっていいんだ」
リックもディノスに補足した。レティを見つめるたくさんの瞳を見つめ返す。ディノスもユーシュテもセリオもユリウスも。そしてリックも。優しく穏やかだ。 不安と罪悪感が渦巻いていた心が、ふわりと軽くなる。
「皆さん、ありがとうございます」
レティはホッと体の力を抜いて、お礼を言った。
「それじゃあ俺たちは帰るけど、みんな無茶すんなよ」
外で雪狼を呼び出して撫でながら、ユリウスが言った。レティ、リック、その他の船員が見送る形になっている。
「お前に無茶するなと言われる日が来るとはな」
声をあげてリックが笑い、ユリウスは口を尖らせた。
「なんだよぉ。なんで笑うんだよ」
「普段から無茶ばっかりしてるマスターが、お前が言うなって感じだからです」
「このっ!だから、お前はどっちの味方だって言ってるんだよ!セリオ!」
ユリウスがセリオを掴もうと手を伸ばしたが、ヒラリと交わして舌を出した。
「僕は常にレティアーナの味方で、それ以上でもそれ以下でもありません。ねっ!レティアーナ」
セリオはレティの腰に手を回して抱きつき、上目遣いにレティを見た。キラキラと輝く丸い目がとても可愛らしい。
「うん」
「うんじゃねーよ。だーまーさーれーるーなって、何度言ったらわかるんだ」
ユリウスは腰に手を当て、もはや呆れしかないといった感じで頭をがっくり落とす。そしてセリオのフードを引っ張った。そのままレティから剥がされ、セリオは引き摺られる。
「じゃ、このエロガキは連れて帰るから。じゃーなー」
「ユリウスさん!くれぐれも暴れないでくださいよ!一応今はまだ安静なんですから」
「わーってるわーってるって」
船医の注意に、聞き流すような返事が返ってきた。
「ユリウス様!」
「ん?」
足を止めてユリウスは振り返る。レティは数歩前に出て、ぺこりと頭をさげる。
「色々、ありがとうございました。また遊びに来てくださいね……?」
「おうよ」
そう言って手を振りながらセリオと二人雪狼に跨り、そして海へ出て行った。




