覚醒の片影11
「レティには俺がついてるから手出しは無用だ」
「その割に何度もレティアーナを奪われているようですが。リチャード・ローレンス?」
「!」
痛いところを突かれ、リックは表情を引きつらせた。
「世界のどこにいっても、リック様は探してくれるって約束してくれましたから、それで良いんです」
レティはにっこりと微笑み、リックのささくれ立った心を穏やかにした。面白くないセリオは、レティの腕に抱きつく。
「僕だって探しに行きますよ。ね?レティアーナ」
「うん」
「だから、くっつくなっっ!」
ユリウスがテーブルを拳で叩き、皿が揺れた。コーヒーを飲みきったリックは皿を重ねて席を立つ。
「レティも終わったな。医務室に行くか?」
「はいっ」
カウンターに使った皿を戻し、席を立つ。
「待ってください」
セリオとユリウスも同じようにして立ち上がった。 セリオとレティは手を繋ぎ、リックの後ろをユリウスと共についていく。
医務室に着き、ノックをしたが返事がない。暫くして看護師の声がした。
「どうぞ」
リック達が入ると、包帯を抱えた看護師がいた。
「船長。副船長の包帯と薬の取り換えが済んだところなんですよ。どうぞ」
開け放されていたカーテンの先に手を向けた。
「……ユース。何度も言うが、ケガをしたと言っても、食事くらい自分でできる」
「あん。つれないこと言わないのぉ。あーん」
体を起こしているディノスは、包帯を巻いた体に水色のシャツを羽織っていた。
ユーシュテは食事を盛ったスプーンをディノスに向け、彼は仕方ないなぁというような顔でそれを食べた。
「……」
それを見ていた一同はなんと言っていいかわからず、固まっていた。レティも恥ずかしくなってしまい、スカートを握ってモジモジしている。 セリオは普通だったが、ユリウスに至っては口を大きく開けたまま、真っ白に石化していた。
「ディノス、口についた」
ちょんちょんとユーシュテがディノスの口元を指で拭う。普段の強気な彼女からはとても想像できない甘ったるい姿だ。
「……おい。」
「!」
いつまでも気がつく気配がないので、リックが声をかけた。ディノスは驚いてむせそうになり、口を押さえた。
「ディノス!大丈夫?」
「問題ない」
すぐに落ち着きを取り戻した彼が静かに答えた。折角のところを邪魔されたユーシュテが振り返って、牙を剥いた。
「リチャードぉおおっ!危ないじゃない!ディノスが喉に詰まらせたら、どうしてくれるのよ!」
「言っとくがノックはしたからな。見舞いに来たってのに、いつまでもイチャついてるからだ」
「あんた人のこと言えるの!?」
「ユース、フォークを持ったまま腕を振り回すな。危ない」
「ざまぁ」
「キィ――っ」
リックは舌を出した。レティは笑ってその様子を見守っていた。
「わざわざ見舞いに来てもらってすまないな」
「ディノス様、お加減は……」
「問題ない、と答えたいところだが。背中の傷が治るまで、銃を扱うのは無理そうだな」
「そうですか」
「レティアーナのせいではないから、気にする必要はない。海賊同士がぶつかれば、多少なりとも被害は出るものだ。リックの体にも残っている傷跡があるのは、見たことがあるだろう?」
「……はい」




