覚醒の片影7
敵船を離れて小船にて待機をしていた船員たちのところへ戻り、迎え入れられる。歓声を上げる間も無く、大ケガをしたディノスやユリウスの介抱に慌ただしくなった。
「……」
服はあってないようなまでにボロボロになっており、脱がされた。その状態で床に座っている。元々口数が少なく、表情が固いディノス。痛みを堪えるためか余計に表情が険しくなっていた。
(副船長、怒ってないか?)
(いつもに増して怖いけど、ケガしてんだ。仕方ない)
船員たちは声を潜めて話していた。
そばにぺたんと座っているユーシュテの指先は、彼に軽く握られている。
「ユース。気にするな」
「でも……!あたしを守ったせいで、こんなケガするなんて」
ユーシュテは、ディノスの手を両手で握った。
「あたしは貴方に忠誠を誓ったの。本来であれば、身を挺して守るのはあたしの方なのよ」
「――そんなことを言うな。お前は女だろう」
「関係ないわ。海の上では、ここでは海賊だもの。必要があれば戦わなくちゃ」
「それでも、傷はないほうがいいさ」
「大丈夫よ。だってあたし……」
言いかけたユーシュテの唇に、ディノスの指が乗る。それ以上は言うなというサインだ。
「あたし、だって」
「わかってるさ。ただ今はそのままでいい。ユースの気持ちは、活かすに最善の時がきっと来る」
ディノスは離れたところに立っているリックを見、ユーシュテもそうした。腕を組んで緑のロングコートを揺らし、海の彼方を見つめている。
リックの側では毛布に包まれたレティ、それとそのまま床に転がっているユリウスが寝ていた。ユリウスはケガをしたところに包帯を巻いて、鼾をかいていた。
「船長」
「……ん?」
クルーに話しかけられ、リックは海から視線を移動させた。
「あの敵船に集まっていた凄まじい落雷、あれはまだ契約者がいたんですか?」
「いや……」
「その後の雲の上から流れてきた白い光、あのあとにおさまったのは分かったんですが。またレティちゃんの力ですかね」
「わからん。あれのおかげで助かったのは確かだが」
レティ自身の力なのか、それとも偶然の何かなのか。それよりも気になるのは、レティの姿をしながら全く別の気配を放つあの人物。確かに、リック達へ向けても攻撃の意思があった。それはアダムが言っていた通りだ。
未だにレティ自身のことも分からないことが多いが、先程の状態が良くないことだけはわかる。そう考えていてふと思い出した。
契約に失敗した植物が船に持ち込まれた際、暴走してユーシュテとレティが操られたあの時。レティの攻撃を受け止めたリックは、その一撃の重みに驚いた。
(普段では考えられないあの時の力。脳のセーブが外れていたからだと思っていたが、もしかしたら今回のような力があったからか?)
二重人格というには、顔以外の姿が変わりすぎている。
もし、次にあの謎の女が現れたらどう対処していくべきなのか。恐らく、レティを育てたであろうジョアンもこの力のことは知らないだろう。
(レティについては、もっと前を知る必要があるな。レティ自身が行きたいと願う、昔両親と暮らしていた故郷。そこに何かヒントがあれば)
リックは腰を下ろした。寝息を立てているレティを見つめる。海から微かに吹く風が、アプリコットブラウンのくせ毛をくすぐっていた。
「レティ……。きっと守る」




