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覚醒の片影6

「……」


無表情、冷たい目で甲板の上にいる者達を見下ろし、謎のレティが槍を天に向けた。夜空で分かりにくかったが、晴れていたはずの空が不穏な動きを見せる。

どこからか湧き出た雲が、渦巻いて集まっていく。

黒いそれは、ゴロゴロと稲妻の音をさせて時折黄色に光る。


「不死鳥!」


我に返ったアダムが不死鳥を呼ぶ。炎の鳥は口を大きく開け、炎の塊をためて大きくしていく。


「!」


そこに鳳凰が突っ込んできた。不死鳥は攻撃準備を止めて一旦避ける。巨大な鳥が睨み合いになっている。


「何をするんだ」

「こっちのセリフだ。お前、何をする気だ」


振り返って睨みつけるアダムにリックが言った。


「リチャード・ローレンス!君ともあろう者がわからないのか!?レティアーナの気配が全くない。そしてあれは何なのか分からないが、凄まじい殺気が満ちている。君たちだけじゃない。ここにいる全員が殺られるぞ。僕は少なくとも、この船にいる皆を守る義務がある」

「レティは傷つけさせない。他所の船の奴が手を出すな」

「何か手立てでもあるのか?」

「止める」


リックは前に出た。手をレティに向け、風を放つ。緩やかに広がるそれはレティの体を取り巻いて、動きにくいように絡みついて戒めた。

レティの体が金色に光る。その光が全身を守る棘となり、束縛を無理やり切った。

天に向けた槍へ稲妻が落ちる。凄まじい雷を纏い、長い槍を振り下ろそうとする動きが見えた。鳳凰が鳴き、全員を竜巻で纏めてガードした。槍が動いた時、空から甲高い音が聞こえた。


キィイイイン!雲が明るくなる。どこから現れたか分からないが、白い光がレティめがけて落ちた。

レティの体は動きを止める。ノイズのように、鎧を着たレティと普段のレティの姿が入り混じる。

しばらく経つと金の翼が消え、槍が歪んで雷ごと霧になって散る。足元から鎧姿が徐々に消えていく。髪の長さも元どおりになり、白の光が無くなり、金のオーラは光の粒となって散らばった。元に戻ったのは良かったが、意識がない為に華奢な体が落下した。

リックが駆け寄って抱きとめる。先ほど見せた禍々しい気配は全く無く、呼吸もゆっくりされていて安堵した。


「レティ、なのか……?」


負傷した腕を押さえながら、ユリウスが側に来る。


「大丈夫だ。俺たちが追い込まれたせいで不安定になって、力が暴走したんだろう」

「そっか……。それにしてもさっきの空から降ってきた白い光は」

「元に戻ろうとする、レティの無意識だったのかもな」

「なるほど」

「さて」


リックはアダムとシュカを見た。


「お前達はまだ、レティを手に入れようとするか?」

「あれが楽園の女神……?」

「知ったことか。レティが女神であろうと無かろうと、どうでもいいんだよ。取り敢えず、お前達には持て余す存在だってことだな。確かに返してもらうぞ。レティはお前には勿体無い」


例えどんな何かを抱えていても、側に寄り添い、船の皆で一緒に乗り越えていく。レティが一人で抱えて、思い悩まなくていいように。


「ディノス、歩けるか?早く帰って手当てをしよう」

「……大丈夫だ」

「無理しないで。掴まって」


ユーシュテが手を貸しながらディノスは立ち上がる。船からレティを連れて出て行くリック達を、アダムもシュカもただ黙って見送った。



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