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覚醒の片影5

(体が……熱い。意識が……)


レティの意識が朦朧とする。そしてすぐに体から力が抜け、背中と頭が反った。変化が起きたのはその時だ。

背中にいつものように翼が現れた。光が薄れるにつれて姿が変わる。髪が風に煽られながら広がり伸びる。手や体を甲冑や小手が覆う。細い足も金属質なブーツ。

そしてゆっくり体を起こし、目を開いた。


「レティ……?」


顔を見る限り、リックのよく知るレティそのものなのに、全体を見下ろす瞳は、ここにいる誰のことも知らないような目つきをしている。


「いつもと違う」

「あれは本当にレティなの……?」


ユリウスやユーシュテも困惑している。


(レティの気配がまるでない。あれは一体……誰なんだ!?)


謎のレティは、手に光を集め始めた。それが長く伸びて槍を象っていく。


(ヤバイ!向かってくるつもりか)


リックはどうしたらいいかわからないまま、拳を握りしめた。







「!!!」


それまでただ静かに椅子へ座り、窓から外を見守っていた女が何かを感じて立ち上がった。


(いけない!)


滅多なことでは外へ出ない彼女だが、焦ったように外へ出る。いつもは外で異形の者がうろついているのだが、今日に限ってそれがなく、逆に不気味だった。

細い腕が空へ向く。どこからともなく長い杖が現れ、女はそれを手に握って翳す。


(今はまだ……。あと少しの時間が必要だから。堪えて)


杖にありったけの祈りを込める。被っていたフードが外れ、雪を思わせる肩までの白い髪が露わになった。


(お願い。どうか、自分を取り戻して。貴女になら出来るはず)


杖の先に白い光が集まった。彼女は何かを唱え、そして光は細く真っ直ぐに天に向かって伸びていった。

暫くして、その光が途切れた。

カラン……。杖が地面に転がり落ちる。

彼女は地面に膝と両手をついた。力を大きく使ってしまっており、息が上がる。それでも。


「全ては……っ、断ち切る、ために」


グッと腕に力を入れ、杖を拾って立ち上がる。 多少杖を地面につくことで頼りながら、家には入らずに別の道を進む。生い茂る木々の奥。ゴツゴツとした灰色の大きな岩が積み上がる壁が見えてきた。

そこに一箇所だけ、ポッカリと穴が空いている。

コツ……コツ。固い地面と杖がぶつかる。薄暗いそこを進んだ。かつて、この地にそれなりの人が住んでいた頃でさえ、この場所は誰も知らなかったであろう。

ただの住人はもちろん、自分と同じ生業をしていた友も。それもそのはず。術を使って、自分以外には見えないようにしていた。


最奥に辿り着いた。水音が反響してよく響く。少し広くなったそこには、地面に透明で大きなものがある。長いそれを覗けば中に水が溜まっており、上から滴ってくる雫が落ちるたびに波紋を産む。

水の中に沈むのは人だった。お腹の上で手を組み、静かに眠っている。地面に置かれたそれはまるで棺だ。

そしてその上には大きな水晶が一つ浮かんでおり、驚くことにそこにも人が入っている。濡れてもいないのに、上の水晶から下の棺へ雫が滴り落ちていた。


『貴女がここに足を運ぶとは珍しい、サラ』


優しげな男の声が、脳内に直接響いた。


「聞きたいことがあってきたの。事態は切迫を始めたわ。あと、どのくらい……?」


上の水晶を見つめて尋ねる。


『彼女が前に負った傷はほぼ癒えた。あとは、最終調整をするだけ』

「そう。……急いでほしい」

『焦ってはいけない。急がば回れと言う』

「わかっているけど、でも!」

『我々は失敗してはならないのだ。長きに渡る時間を、無駄にしてはならない』

「……」


俯いてしまった自分を分かってか、男の声は更に優しく宥めるような口調になる。


『大丈夫。上手くいく。守ってみせる』


ピチョン……。また水晶から雫が落ち、下の棺で波紋を作った。



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