覚醒の片影2
「不死鳥はただの鳥じゃない。火と呼ぶにも炎と呼ぶにも足りない。強すぎる灼熱と水は、どちらが強いかな?」
アダムが微笑み、不死鳥が光る。同時に凍っていた箇所が赤くなり、氷が溶けて一瞬で水になった。やがてそれは湯気を立てて蒸発する。
「ユリウス!油断するな!」
「!」
あまりにも氷が溶けるのが早く、想定外だったユリウスが気を取られた。不死鳥が炎を纏い、勢いを増していく。光が収まり、不死鳥が大きく口を開ける。そしてユリウスに向かって炎を勢い良く吐き出した。
「チッ!」
リックは右手を左から横へ振った。ユリウスと雪狼を風が取り巻いて、炎の道筋から引き離す。その後、床を蹴って跳ぶ。
ユリウスが助かっても、炎は確実にリックたちのところへ届いてしまうからだ。
「ユーシュテ!離れてろ!」
リックに言われ、ユーシュテはポケットから飛び出した。下でディノスの手に拾われる。
「リック兄ッ!」
何かを背負い投げするように振りかぶり、そこに勢い良く風の壁が産まれた。その流れのおかげで炎が分散し、船の外の海へ当たる。リックとユリウスが着地すると、海から蒸気が上がった。
(リックと不死鳥、今の状態でどちらも互角か)
「ここの船からあの二人以外に、歯向かってくる仲間がいないわ」
ディノスの肩に立ったユーシュテは言う。
「そうだな。リックとだと、巻き込まれる可能性があると思ったんだろう」
「うちの連中も連れてきてはいるけど、まだ待機だものね」
同じく戦いの余波で犠牲が出るかもしれないと思い、合図をするまで待っているようにリックからクルーは言われていた。
「今がチャンスよ。リチャードたちに意識が向いているうちに、レティを探しましょう!」
ユーシュテが飛び降りて、駆け出した。
「待て!ユース!」
「!」
ユーシュテに気がついたシュカは手を向ける。道化師の手がぬっと伸びてきた。自分のいる場所が陰り、ユーシュテは上を向く。
「しまっ……」
(気づかれてた)
「ユース!」
ディノスが走ってきてユーシュテの体を手に収め、床を転げて回避した。
庇われた手からユーシュテが体を起こし、ディノスに縋る。
「ディノス!あたしが迂闊だったから……ごめんね!ディノス」
「大丈夫だ。何ともない」
「ディノス!」
狙いを外した道化師は直ぐに手を上げ、襲いかかってきた。ユーシュテは光り、大きく姿を変える。太股に付けてあった短剣を手に握る。
「ユース!無茶だ」
ディノスが立ち上がった時、二人の前の空気が凍って壁のように覆ってきた。シュパッと音が聞こえ、側に大きく太い道化師の腕が転がった。
「大丈夫か!?」
炎を避けながら攻撃をするユリウスの声がかかる。リックと彼が二人に気がついて助けてくれたのだ。
床に落ちた手はグニャグニャと白く歪んで、切られた道化師の肩に飛んでいく。そしてすぐにくっついて元どおりになった。
「すぐに再生されるんじゃあたし達に太刀打ちができないわ」
「仕掛けがあるはずだ」
ディノスが落ち着きはらって言う。
「術者を倒すか、あるいは道化師の弱点を見つけるか」
「術者っていってもあんな上よ」
シュカは道化師の肩に座っている。
「ダーリンはもっともっと強くなる」
彼女の声に合わせ、アダムが光った。同時に不死鳥が勢い良く燃え上がる。不死鳥が翼を勢い良く羽ばたかせ、隕石のような炎が降り注いできた。
リックとユリウスは避けていく。リックが防ごうとして風を起こすが、炎とぶつかって炎上してしまった。気がついたユリウスが来て、雪狼がリックのジャケットを噛み、巻き込まれないように移動する。
「風は炎の餌食として、力を増す道具になるだけです」
ややリック達が劣勢になってきていた。




