まるで子どものような5
何分かしてリックの力が弱まり、レティは上を向いて問う。
「リック様、私の荷物の場所はご存知ですか?」
「ああ、そうだな」
思い出したような顔をした彼が解放してくれた。レティは数歩下がる。
「行こう」
リックがさっきディノスが去ったのとは逆の方向へ歩き出したので、その後に続く。
通路は二人並んで通っても、人一人と余裕ですれ違える広さがあるが、レティはやはり右後ろから一歩遅れてついていく。
「レティ、部屋のことなんだがな……」
「はい」
「空いた部屋を探して船員に準備させたんだが、どうも運び込んだベッドが壊れていたらしい。それで、次の島で揃えるまでは……」
リックは下の短い階段を下りた。その奥に大きなドアがあり、それを引いた。
「ここで寝てくれ」
ドアが大きいように、現れたのは広い部屋。
大きめの木造の机、その横に同じ素材の本棚、薄い水色の寝具で揃えられた大きいベッド、白い壁。
でも何よりも心を奪うのは……。
「わあっ!」
机の前とベッドの横についた丸い窓。見えるのは空じゃなくもっと濃いブルー。
そこに何かを見つけたレティは走った。机のそばのそれは少し位置が高く、背伸びをすれば見ることが出来た。
「海の中ですか!?さっきお魚さんが通った気がします!」
「そうだ。ここは地下の部屋だからな」
「こういう風に海の中を見るの、初めて。素敵……。あっ!小魚さんの群れが通りましたよ、リック様っ!」
「そんなに好きなら次の島までと言わず、ここでずっと寝るか?」
「えっ、いいんですか?」
嬉々として背後にいるリックを見た。
ここが何処かもよく考えない上に、聞きもしない彼女。何度も経験してもう想定通りすぎた。
(鈍感)
リックが笑う。だがそれは慈しむものでも楽しいという表現のものでもない。
どちらかというと、危険性を孕んだ何か良くないことを考えているような、そんな――。
レティの濃紺の瞳は、真っ直ぐ不思議そうにリックを見ている。
流石にその笑いが何か違うということは感じとれるらしい。
そんな彼女の耳の上、左手を窓について、右手で細い肩に力を込めてレティの体の向きを引っくり返す。それから右手を壁についた。
透き通った二つのラピスラズリの中に映るリックが大きくなった。レティの顔の近くに来たからだ。
「お気に召すままに。ここは俺の部屋だからな」
パチパチっとレティが早く瞬きをした。
(この部屋に寝かせてもらって、でもずっとというと、ここはリック様のお部屋で……)




