不死鳥の宝石13
「これは……」
金色の膜のようにも見えるそれは、小さな粒を生んで宙に浮かばせる。
「はぁっ、……はっ、……は」
辛そうな呼吸。
(リック様)
粒は少し浮遊すると消えていく。そしてしばらく経ち、最初よりは呼吸が落ち着いてきた。
「……う、……はぁ、はぁ」
「レティアーナの力。まさかこれは、薬の効力を浄化してるのか?」
手で触れようとしても、すぐに弾けてしまう光の粒。レティの様子をジッと見ながら、アダムは考えた。 そんな時だった。
「!」
船の近くにただならぬ気配を感じ取り、顔を上げる。
「まさか」
穏やかだったはずの海が荒れ始めたようだ。船内がわずかに揺れ始める。アダムは落ち着いて腰を上げた。そして表情を厳しくする。
「君が落ち着くまで側にいてあげたいけど……。行かないといけないみたいだ。ここで体を休めててくれ。レティアーナ」
穏やかな普段の表情とは変わり、顔つきが戦闘態勢にはいる。
「思ったより早かったな。流石は風といったところか」
部屋を出て、外に向かって足早に廊下を歩いた。
「ユリウス!」
上空から声がかかり、ぼーっとしていたユリウスは我に返った。雪狼は尻尾を左右に振りながら、固めた氷の上をウロウロしている。
「聞こえなくなっても、匂いで追えるだろう?」
「それが……」
クゥンクゥンと心許なく鳴き、雪狼の耳が項垂れる。
ユリウスは雪狼の頭を撫でてやる。
「お前のせいじゃない。気に病むな」
声をかけてから、夜空を仰いだ。
「それもダメなんだ、リック兄!」
「何!?」
「歌声が途切れたと同時に、まるでレティの痕跡が消されたみたいに、匂いすら感じ取れなくなった。――っくしょぉーっ。ここまで来て」
悔しさに自分の足に拳を落とした。リックは前方を見る。見渡す限り島もない海。
「ユリウス。歌声が聞こえたおおよその方向はわかるのか?」
「それはわかるけど……。こっから見て十時の方角だ」
「時間をかけると移動される恐れがある。このタイミングを逃すわけにはいかない」
「何か策はあるの?」
流石に、ユーシュテも心配そうにリックを見上げた。
「風というのは元々テリトリーに範囲がない。廻るところであれば情報を取ることも可能だ。――よっ、と」
鳳凰の背からリックが飛び降りる。海面近くに来ると、まるでそこが陸になっているかのように着地した。海面とリックの足の間に風が入っている。
海面に片方の膝をつき、手を当てた。
「試したことはないが……やってみる価値はある」
リックの足元に魔法陣が現れた。ゆっくり回転を始め、そして。
ドン!!海面に触れた手が光り、十時の方向に向かって波の上を何かが駆け抜けた。海面を走るのは風だ。進むにつれて段々と広がりを見せていく。
(この方向に船、もしくはそれらしい何かがあるはずだ)
進む風が障害物に当たる。
「!」
風の通り方の違和感に気付いたリックは、上を見た。
「鳳凰!」
キィイイイイイ!!甲高い鳴き声とともに美しい羽根を羽ばたかせて風を作り、そこから小さな分身の鳳凰が現れる。閃光のようなスピードで分身は先ほどの風の道を通った。
リックの瞳に魔法陣が映り、分身の瞳と視覚が同化される。分身が立ち止まった先、そこには変わった造りをした船がいた。
客船でも商戦でもない、アラビアンと例えればいいのか見たことのないデザイン。まさに、不死鳥を連れ立っていた、あの敵の男にピッタリである。
船の上に四つの炎が浮かんでおり、リックの起こした風によってそれがゆらゆらと揺れていた。
分身は役目を終え、風となって消える。
リックは立ち上がった。
「――見つけたぞ」
口の端を上に引き上げて言う。
「レティは返してもらう」
「本当か、リック兄!」
「ああ。方向を掴んだお前のおかげだ。行くぞ!」
風の力を纏わせ、また鳳凰の背中に戻った。
(見失う前に、攻め込む!)




