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不死鳥の宝石12

薄暗い廊下を足早にアダムは歩いていた。いつも付き添ってくる女官もいまはいない。自分と一緒に寛いでいた宝石たちも、挨拶をしてから各自部屋に戻って寝ている。


『レティアーナが僕に聞いてほしい話?』

『そうですの。何やら少し深刻そうな面持ちで』


紅珠が入浴後に帰ってきて、宝石たちを眺めながら寛いでいた自分にそう耳打ちしたのだ。

連れてきたばかりだし、心細くて不安な思いをしているのは表情や仕草から滲み出ていたから。

何か力になれるなら寄り添いたい。そんな思いで、アダムは用意されたレティの部屋をノックした。


「レティアーナ。いるかい?」


返事がない。代わりに、外で控えていた女官が扉を開けた。


「アダム様、どうぞ」

「レティアーナ?話というのは……」


ゴソゴソと布の擦れる音がした。廊下よりさらに暗い部屋はランプが一つ灯っているだけ。

天蓋付きのベッドから音がする。

アダムはゆっくり歩き、カーテンに手を差し入れて持ち上げる。


「ふ、……は、……はぁ」


胸を握りしめ、浅く呼吸をするレティの体がベッドに横たわっていた。

灯されたランプの光が当たり、頬が真っ赤になっているのが分かる。


「レティアーナ!具合でも悪いのかい?」


抱き起こそうとしたアダムが腕に触れた途端、レティの体がビクッと跳ねた。


「あふっ……!」


(これは――やられた)


アダムは頭に手を当てた。レティは燃えるように熱い体に意識も朦朧としており、閉じたままの目尻に涙さえ浮かべていた。


(熱くて熱くて怖い。ふわふわ変な感覚がするの。リック様……!)


「誰か……」


入り口を見つめて声をかけるが、誰の返事もない。いつもであれば、扉の向こうに女官が控えて返事をするはずだが、それもない。人の気配もないので、自分が部屋に入ったのを見届けて何処かに行ってしまったらしい。


紅珠(ルビー)のやつ。見事に嵌めたな。レティアーナに薬を盛ったか)


「ふぇ……」


レティがポロリと涙を流し、うっすらと藍色の瞳を覗かせた。


「レティアーナ!大丈夫かい?」

「あふ……、はぁ」

「……て、大丈夫なわけないか」


細い手が震えながら持ち上がり、アダムの服をつかむ。


「リッ……ク、さ……」


何か呟いたようだが、うまく聞き取れなかった。

無理矢理上気させられた頬、涙によってキラキラ輝く瞳、甘えるように縋る手。

幼い外見だと思ってはいたが、ランプの光も手伝って今は正反対の艶やかな姿が見える。

このまま手をつけてしまうのは簡単だし、もちろんそうした方が、薬に悩まされることから解放はしてやれることも分かってはいる。

だが、シュカの話からも実際に接した感じからも、レティは純粋で素直であるのだろうから、起きた時の自分の状態が理解できたら傷ついてしまうだろう。


「こりゃ参ったなぁ」


ベッドの脇に腰をかけて、アダムは深くため息をついた。


(熱い……)


「はふぅ」


自分を襲い来る初めての感覚に堪え、レティは眉根を寄せる。 手に力が入り、シーツにシワが寄った。


「レティアーナ……」


アダムが汗で額に張り付いたレティの前髪を 触ろうとした時だった。

ジジッ……バチッ!


「!!」


微電流のようなものが、手を弾いた。そしてレティの体の輪郭がほの明るく金色に染まり始める。



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