不死鳥の宝石11
「アダム様は優しいお方ですが、海賊でもあられますから。ここにいる私たちの中には、元住んでいたとこから連れ去られて来た者も当然おりますの。最初はホームシックのような状態にもなりますが、今はアダム様を一途に想っておりますのよ?」
「皆様、シュカちゃんと同じようにアダム様をお好きなんですか?」
「私たちみんなアダム様に愛されておりますし、お慕いしておりますわ。全員がアダム様の恋人なのです。勿論、貴女様もその一人になるために、ここへ連れてこられたのです」
「!」
レティは驚いた。アダムはレティの力への興味のためだけにここに連れてきた、そう思っていたからだ。
(私がリック様ではなく、アダム様を好きになる……?)
信じがたい話だった。
「――さて。いつまでもここに浸かっていたら、茹だってしまいますわね。上がりましょうか」
「はっ、はい」
紅珠がレティを放し、先に立ち上がって歩き出したのでその後を追った。控えていた女官がタオルをそれぞれ差し出した。
「ありがとうございます」
受け取って脱衣所で体を拭き、服を着る。鏡の前で頭にかける布を掛けているが、頭の輪を乗せる前に落ちてしまった。
「ふふ。掛けてさしあげますわ」
背後に紅珠が立ち、レティに布をふわりと掛けて輪をはめてくれた。
「あれを」
それから女官に向かい、手を向けて何かを指示した。
「はい、ただいま」
女官が静かに答え、トレーと共に小さな杯を持ってきた。それを紅珠が取ってレティに手渡す。
「お風呂上がりですから、喉が渇きませんか?宜しかったらどうぞ。水ですが、落ち着くハーブも入っていますの」
「何から何までありがとうございます」
素直に受け取り、レティは中身を飲み干した。普通の水よりは、ミントのような清涼感のある味が微かにした。
それを見守り、紅珠は口元を緩めたが レティは気づかなかった。女官がトレーを差し出したのでそこに杯を返す。
「ハーブが効いてきたら、きっと心細く眠るということはなくなりますわ。では貴女達、ピンクゴールドの姫様を寝室へご案内して差し上げて」
「畏まりました」
女官が頭を下げて手を出入り口に向ける。
「姫様、此方でございます」
「あっ、は、はいっ」
レティは慌てて立ち上がりる。
「おやすみなさいませ、ピンクゴールドの姫様」
「おやすみなさいです。紅珠様、ありがとうございました」
親切にしてくれた相手にペコリと頭を下げて挨拶をして、先に歩く女官の背中を追いかけた。手を振って見送りながら紅珠は満足そうに微笑み、側に残っていた女官に向かって小さく声をかけた。
「手筈通りになっていますこと?」
「勿論でございます」
「カシュカ様のおっしゃっていた通り、素直な子で助かったわ。これであの子は、アダム様のものになるわ。偉大なるお方の情熱の炎に、焼き尽くされるのよ」
ふふふふっと可笑しそうに笑い、紅珠は自室に戻るために歩き出した。




