不死鳥の宝石6
(やっぱりリック様は)
ほろ……。透明な滴が一粒頬を転げ落ち、慌てて手の甲で押さえた。シュカが慌て出す。
「ごめんね。謝ってもどうしようもないけど、本当にごめんね!」
レティは頭を振った。髪を覆う布がふわふわと揺れる。
「ちが……っ。私、そじゃなくて。何でリック様を信じられなかったんだろって、思って。悔しくて」
いつだってレティに優しくしてくれてた彼が本物だった。ディノスもそう言っていた。レティの見るリックが、そのままの彼の姿だと。
それでも信じられなかったのは、自分の弱さなのだ。
(あんなに優しい人を私は傷つけた)
避けられる痛みも、疑心を抱かれる苦しみも知っていたのに。
(謝りたい。リック様に謝らなくちゃいけない)
手の甲で目を押さえ、肩を震わせるレティをシュカがそっと抱き寄せた。
「大丈夫。レティちゃんは、これからあたしとダーリンが守る。無理やり連れて来たから、それは絶対。だからここを好きになってくれたら嬉しい」
(でも、でも……リック様……!)
ズキズキと心が痛んで締め付けられた。どうしたらこの痛みは消えるのだろう?
2時間休んで完全に回復したリック。ユリウスに尋ねる。
「レティを探せると言ったな?どうやってだ?」
「勿論、匂いを辿ってだよ。レティの持ち物、何か貸してくんねぇ?こいつの首に下げる」
「なる程分かった」
少し眠って眠気の覚めたユーシュテを肩に乗せたディノス、ユリウスと共にレティの部屋へ向かう。
開けたら予想通り、机の上にリックがプレゼントした髪留めとポーチが置いてあった。
バレッタを取り上げ、ユリウスに渡した。
「紐を用意するから、雪狼につけてやれ」
「おう」
「なくすなよ?」
「そんなヘマするかよ」
いたずらっぼく言うリックに、ニヤニヤしながらユリウスが答えた。
「俺の後ろから、ついてきてくれ。但し、鳳凰は近くに寄せないで貰いたいんだ。リック兄。風で匂いが掻き消されたらアウトだ」
「分かった。離れておこう」
頷き合い、そして甲板へ向かう。赤ジャケットはクリーニングしているので、深緑のを着た。
外に出て、見張りに合図して警鐘を鳴らさせる。船員が続々と出てくる。
リックはユリウス、ディノスと共に前へ立ち、剣の鞘を握って前に突き出した。
「これからレティを取り戻しにいく。必ずこの家に帰るんだ」
おおーっと大きな声と、たくさんの剣を握った手が上がる。ジャンはコック服のまま、リックに言う。
「船長。我々はお嬢ちゃんが喜ぶ料理と、皆の疲れを癒す料理を作って待ってます。必ずお嬢ちゃんを連れ帰ってください」
「もちろんだ。連れ戻すまでは帰らない。人の少ない船を頼む」
「任せてください」
頷き合い、リックが手を下げた。ユリウスは船縁に登り、そこに立ってシャツの袖を捲り上げた。
青白い光が肩に陣を描き、床にも同じものが広がる。
「俺に応えろ!雪狼」
魔法陣から細かい雪が噴き出し、一箇所に集まる。
アオオーン!高い鳴き声を上げ、雪狼が現れた。ユリウスが雪狼を撫で、持ってきたレティの髪飾りを差し出す。
「探してくれ。レティを」
鼻を近づけ、クンクンと匂いを嗅いだ。その後に紐を通し、雪狼の首にそれを下げた。
ユリウスが雪狼の上に乗る。
「ユリウス」
リックが呼び止めた。
「ディノスを後ろに乗せてくれ」
「いいぜ」
「ユーシュテ、こっちに来い」
ディノスがユーシュテをそっと手に乗せ、リックへ預けた。




