不死鳥の宝石5
「……っ」
風呂についたディノスは、中を見て言葉を失った。いつも入浴剤の香り立つ風呂が今。
固まっていた。氷で。
リックの象徴である鳳凰の像から出る湯は、ポタポタと雫を垂らすだけで循環していなかった。
「これはどういうことだ」
「中で泳いでたらユリウスさんが」
誰の仕業なのかは、言われなくてもわかるが……。頭を押さえてため息をつき、ついてきていたユリウスを見る。
彼は頭の後ろに手を当て、目を合わせずに唇を尖らせて言った。
「いい勝負で熱が入ったらついよぉ」
「つい、で人の船の風呂を氷漬けにする奴があるか」
ゴンっ!
「あてっ!」
ディノスはユリウスへのお仕置きに、一発拳骨をお見舞いした。
容赦ない一撃に、頭を押さえてしゃがみ込むユリウス。
「固めたのは表面だけだって」
どちらにしても、氷が入れば湯は冷えてしまうし湯船として使い物にならない。
「氷を割って一度下の残り湯を流し、新しいのを入れて溶かそう。レティアーナが帰った後でな」
そう言い、ディノスは風呂の扉を閉めた。
さらさらと肌触りの良い服に着替え、レティは天蓋のカーテンを開けた。
「終わりました」
壁に背を預け、床に座っていたアダムが立ち上がって褒める。
「思っていた通り、よく似合う」
レティが手にもっていた布と輪を取り、ベールをかぶせるようにしてから頭に輪を乗せてくれた。
「さあ、行こうか」
「どちらへですか?」
「僕の宝石達の所さ」
首を傾げるレティの手首を掴み、アダムはマイペースに引っ張って行く。
彼が近づくと、出入り口の布が勝手に開いた。通路に控えていた女性二人が開けたらしい。
レティは彼女達に軽く頭を下げ、アダムと歩いた。その途中で、部屋から出てきた人物がこちらに気づいて手を上げた。
「ダーリン!レティちゃん!」
「シュカちゃん」
シュカはユーシュテから借りたワンピースではなく、出会った時のような薄い黄色の生地で、レティと似たような格好をしていた。違うのは、お腹と肩が露出しており、パンツスタイルでその上にスカートのような布を着ていることだった。長い髪もゆるゆると三つ編みにしてある。
シュカは駆け寄ってきて、レティの顔を覗き込む。
「体調、気分悪いとかない?大丈夫?」
「……それは平気」
「そっか」
安堵した様子。それからアダムに体の方向を向けた。
「ダーリン。あたしレティちゃんと話がしたいの。後でダーリンのとこ連れてくから、二人で居てもいい?お願い」
「いいよ。じゃ、可愛いレティアーナ。後で」
アダムは快く了承し、先に歩いて行ってしまった。
シュカの顔がまっすぐ見られない。俯くレティの手を、彼女がそれぞれ握った。
「あたし、レティちゃんに色々謝らないといけない。まず、あたしはシュカじゃないの。本当の名前はカシュカ。ダーリン……さっきのアダム様の恋人。呼び方は今まで通り、シュカでいいんだけど」
「アダム様の恋人……?」
レティは顔を上げた。シュカが眉を下げて困ったように笑っていた。
「ダーリンが、レティちゃんに興味を持ったの。それで連れて来るために、色々画策した。目に留まるように倒れてレティちゃんに近づいて、そしてあの船長さんが好きなように振る舞ったし、私に逢いに来たように作り話もした」
「――え?」
「レティちゃんはホントに純粋みたいだから、時々罪悪感もあったけど。任務だから。ごめんね」




