まるで子どものような4
船内の壁は白かったが、床や各部屋のドアは木のままで、少しコーティングをしているらしい。
ディノスの背中について歩く。
書庫、医療室、大浴場、それとは別に個室になったシャワー室、倉庫、洗濯室、二つの会議室。あとは……。
(どうしよう。覚えきれないと言うか、もう分かんなくなってる……)
広すぎて確実に迷子になるだろう。
行きは良くて帰りがダメならまだしも、行きからコケそうな予感だ。
「最初はわからないと思うが、その辺のクルーなり俺なりに声をかけて気軽に聞いてくれ。案内したところ以外、ナンバープレートがついているのはクルーの部屋で、主なところは以上だ。何か不明な点はあるか?」
「いえ。……あっ」
「どうした?」
(忘れてたけど、私の荷物とか部屋って何処なのかしら?)
それを口にする前にわかってくれたのか、答えが返ってくる。
「部屋は、リックがレティアーナにとって一番都合が良いところを考えているはずだが……。後で確認しておこう」
「ありがとうございます」
お礼を言ったた時、通路のドアの一つが開いて深紅の姿が出てきた。
「リック」
呼び止められてリックが気づき、此方に来た。
「レティ、ここにいたのか」
「はい。船内探検してきました!」
「あはは。それは良かったな。覚えられたか?」
リックが笑ってレティの頭を撫でた。
「う、あの……それが……」
「まあ、広いからな。徐々に覚えていけばいいさ」
「はいっ」
レティも笑顔になってリックに頷いて答えた。それからリックは、案内してくれた彼の肩を叩く。
「レティ、こいつは副船長のディノスだ。俺が居なくて困るときは、頼ってくれ。船内のことも船員のことも、この船で一番分かっているからな」
「あっ、はい。改めて宜しくお願いします」
「此方こそ」
ディノスが手を差し出したので、レティも同じようにして軽く握手した。
「じゃあ、ここからはまた俺が引き受けるから大丈夫だ」
「わかった」
ディノスは立ち去った。それを見届けて、リックがレティの頬に手を添える。
「だいぶ緊張が取れて、顔色がよくなってきたな」
「ディノス様がお世話してくださったお陰です」
「んん……。ディノスだけか?」
訊ねられてリックを見上げた。何かを待っているようだ。
レティは真っ直ぐ見つめられていることに恥ずかしくなって、下を向いてリックのジャケットを掴む。
「でも……えと。やっぱり……リック様が良いです。リック様のお側が一番……ほっとできるので。私にとってはその……リック様は特別です……」
頑張ってつっかえながら言い終わったら、黙って聞いていたリックの手が腰と背中に回った。
リックの香り、これは香水だろうか?
そのとてもいい匂いに包まれ、レティの心臓が跳ね上がって身を縮めた。
「あっ、あ、あのっ、リック様?」
「はぁ……」
リックが息を吐いて、それが耳にはっきり聞こえる。
(やば……キュンと来た……)
心を甘く絞められたリックは、より一層レティを強く抱きしめる。
「リック様?」
「ありがとう、レティ。それから悪い。嫌じゃなければ暫くこのままでいさせてくれ」
レティが再度リックに声をかけたら、今度はまともに答えが返ってきた。
(嫌ではない……けど、このままだと心臓が持たないかも……)
困ったけれど苦しいわけでも離れたいわけでもないので、そのままリックの気が済むまでレティは大人しくしていることにした。
時折髪を手櫛ですいてくれる大きな手が、とても優しくて心地よかった。




