不死鳥の宝石2
着替えようと着ていた服に手を掛けたものの、止めてしまった。
「あの」
「何だい?」
「私、帰れるんですか?」
寝落ちする前の最後の記憶はある。だから、自分の本意でここにいるわけでないことくらい分かっている。
「どうだろうね?」
怒るわけでもなく、外からアダムは答えた。
「言わなくても気づいていると思うけど、僕は海賊だ。君のいた船もそう。海賊と言うのは、宝を奪い合う。あの船から僕は君を奪った」
「楽園の女神だと思ったからですか?」
「それもあるし、単に興味を持っただけだ。だから、僕の持っている宝石達の一つにしたかったんだ。君の仲間が僕から再び君を取り戻せたら、帰れるだろうね」
(私……)
リックの部屋を飛び出して、それきり。彼の口から何も聞いていない。
何も言わず、避けるように逃げてしまった自分を追いかけて来てくれるだろうか。いつものように。
いざこざが終わる時、隣には彼がいた。疲れたレティを癒すように。
(どうして信じられなかったの)
落ち着けば見えてくる色んなことがある。
引き離されても引き離されても、リックは必ず探し出してくれた。
それが海賊船であれ、国のいざこざであれ。
自身の命を危ぶめても、それを掛けて戦ってくれた。
何も言わなくても彼の手によって守られていたからこそ、レティは安心して笑っていられたことを。
(帰りたい)
唇を噛み締め、手を強く握った。
(優しいリック様を信じられなかった私は、帰る資格がない。そう思うのに、あの場所が恋しい)
リックがあの船に招き入れてくれたからこそ、得ることのできたたくさんの時間。
ユーシュテと初めて会い、和解した日。
ユーシュテとはそれから書庫で整理をしたり、洗濯物を干したり掃除したり風呂に入ったり。物を知らないレティに、たくさんのことを教えてくれた。
そんな彼女とすぐに言い合いになるリック。それをゲラゲラ笑いながら見る仲間達と、呆れて頭を押さえるディノス。
リック以外にレティが困っていたらすぐに気づき、さらっと声をかけてくれるディノスにはたくさん助けられた。
いつも特別にデザートやおやつを用意してくれていた料理長のジャン。
たまに遊びに来て、騒ぎ立ててはリックやディノスから怒られるユリウスやセリオ。
生意気で何故かリックと敵対しているセリオは睨み合いになり、二人はディノスから何度も怒られた。時には長々と説教を受けることも。
故郷の島では、ジョアンの側以外で笑うことができなかった。自由に歌うことも。
それをあの船では好きな時に出来たのだ。
リックの側で声を上げて笑い、わざと翻弄させてくる彼にドキドキしたり、歌ったり。
自分の歌を心から受け入れてくれる場所が出来た。
歌うことと同じくらい好きなのは、あの背中。ロングジャケットを風に靡かせ、声をかけなくてもレティが彼を見つけた時、またリックも振り返ってレティに気づいてくれた。
その振り返る優しい顔が好き。
(これは、私への罰なのかもしれない)
ため息をつき、レティは服を脱ぎにかかった。




