まるで子どものような3
「シーツですか……?」
「ったく……」
彼がレティに頷いて答える。
ため息をついて、近くを歩いていたクルーを呼び止めて手にそれを持たせた。
「悪いが上に戻しておいてくれ」
そう頼んでまた歩き出した。レティもクルーに軽く頭を下げ、後を追う。
二つあるドアのうち、一つが開けられた。
長テーブルが5つ並べられ、背がついたベンチのようなこれまた長い椅子がある。
そこにクルーが何人か座って飲み物を手に話をしている。此方に気がついて立ち上がって頭を下げ、また彼らが腰を降ろして話に戻った。
壁には窓があったが、壁がない方には高さのある帽子を被った白い格好をしたクルーが忙しく数人動き回っていた。
湯気がたっていたり換気扇の音がしたり何かが焼ける音、まな板とぶつかる包丁特有の音に鼻を擽るたまらない薫り。
「ここが食堂と厨房になる」
何処なのか流石にわかりきっていたが、一応形式で彼が説明をした。
「出入りは自由。夜もコックたちが居なくても自由に入っていい。アルコール以外の飲み物は、勝手に冷蔵庫を開けて取り出して構わない。厨房の冷蔵庫には鍵が掛かるから、飲み物用の冷蔵庫は別にしてある。あそこだ」
カップやグラスが整列しておいてあるテーブルが一つあり、その横に小さな冷蔵庫があった。
そのテーブルには、他にコーヒーメーカーや電気ポットが二台ずつ、紅茶のティーバッグや砂糖にガムシロップとミルクの籠が有る。
「外で自分専用の飲み物を買ったりしたときは、間違えて使われないように名前を貼っておけ。マグカップがあれば、コックが食器棚に預かってくれる」
「はい」
うんうんと頷いていたら、彼がレティの腕を少し横に引いた。
同時にドアが開いて大きな箱が入ってきた。箱を抱えて来た縦にも横にも大きなコックが此方に気づいた。
「あれっ!見ない顔。新人?」
「リックが連れてきた。レティアーナだ。調度良い。彼がここの料理長をしているジャンノットだ」
「初めまして。レティアーナです」
レティは両手の指先を揃え、ペコッと勢いよく頭を下げた。
「ジャンって気軽に呼んでくださいよ、可愛らしいお嬢さん。それにしても細っこい体してるねぇー。美味しい料理をたくさん食べさせて、もう少しふっくらさせてやろうかね」
「そうだな……」
彼が頷いた。
「あっ、えと……よ、宜しくお願いしますっ。楽しみにしてます」
「期待は裏切らないから大丈夫だぜっ」
愛想のいいジャンは、レティの緊張を解くように片目を閉じてウインクして見せた。
「じゃ、悪いけど仕込みがあるから戻らせてもらいますわ。中は見学自由だから、いつでもどうぞ」
「俺たちも次に行くか」
「はい」
レティたちも料理長と別れ、次に向かった。




