やきもち13
「シュカさん、検診の時間ですよ。カーテン開けますね」
看護師が声をかけ、カーテンを開ける。シュカはベッドに座り、足をぶらぶらさせて自分の髪を指に巻きつけて遊んでいた。
俯いていた顔が上がり、首を傾げてにっこりと微笑む。
「ちょっと待っててもらっていいですか?」
シュカは右手をスッと上げる。その人差し指が看護師へ向いた。
「!」
彼女の声を聴いた途端、金縛りにあったかのように看護師の体が固まる。
「別に何もしないわ。ただ、そこで待ってて」
(体が動かない!?)
焦る看護師だったが、声も出せない。
中々シュカが出てこないので、船医が開きかけのカーテンの向こうから声をかける。
「おーい。どうかしたか?」
「今行きます」
ベッドから降り、スリッパを履いてシュカが出てくる。そして、手と指先が先ほどのように船医にも向いた。
此方を向いている船医も、別で動いていた船医も看護師も全員動きを止めた。
「お利口さんにしてて下さいね?」
シュカは固まる体の間を歩き、キョロキョロと周りを見回す。そして、夜に使うためのランプを見つけた。
机の引き出しの一番上を開けてみたら、案の定マッチがある。それを擦ってランプに火をつけた。
蛍光灯で明るい部屋に、暖色の明かりが上乗せされる。
膝に手をつき、ランプを覗き込んだ。淡いブルーの瞳に炎が揺らめく。
「ダーリン、ダーリン。聞こえますか?」
語りかければ、炎が息を吹きかけられたかのように不自然に動いた。
『聞こえてるよ。カシュカ』
優しい口調の返事が聞こえ、その後炎が照らす光が大きくなってうっすらと人が映る。
『大丈夫?無理してない?』
「平気。ただ、狙いがどうも船長の寵愛受けてるみたいだから、まず引き離す。かなり純真な子で、色々派手にやりにくいんだけど」
『そうなんだ』
『若王子様、誰と話してるのー?』
女の声がして、彼の前にその顔が現れた。派手な化粧をした華やかな顔。
『あ!金の姫様!元気ですかー?』
「うん。元気」
向こう側の女が手を振ったので、シュカも小さく振り返した。
『こらこら。邪魔しないの』
小さな子どもに言い聞かせるような声が聞こえ、再び男が出てきた。
「とりあえず、あの子を不安にさせて畳み掛けるわ。その頃、他の船員を動けない状態にするから迎えに来て?合図はするから」
『勿論だよ。必ず迎えに行く』
「うん。ダーリン?」
『何だい?』
「愛してるっ。早く会いたい」
『僕もだよ。カシュカ。またいつでも連絡しておいで』
「うん。またね」
後ろで手を組み、シュカは微笑んだ。それを最後に広がった光は元の炎に戻り、映像は消えてしまった。
「皆、もういいよ。でもさっきのことは忘れてねっ」
パンと音をさせて手を叩く。固まっていた船医や看護師も動けるようになった。
「あれ?ここで何を……」
シュカのベッドの前にいた看護師は、片手を頭に当てて首を傾げる。
「診察、するんですよね?」
彼の近くまで戻り、シュカはにこっとして言った。金縛りに遭う前のことを思い出し、看護師は頷いた。
「ああ、そうですそうです」
「たった今まで話してた内容忘れるなんて、お疲れなんじゃないですか?」
「そんなに激務でもないんですけど。今日は早めに休みますかね。先生、診察お願いします」
「ああ、はいはい」
同じく固まっていたことを忘れ、違和感を感じている医師が返事をする。
シュカは看護師に連れ添われ、診察のカーテンを開けて中に入った。




