やきもち11
「朝はどうだったの?」
「寝起きは元気だった。俺が風呂に行って戻るまでの間だ。俺以外にレティが心の内を話すのは、ユーシュテかディノスだろう。今回の落ち込みについてはディノスに話してないようだから、ユーシュテならと思ったんだが」
「リチャードの目を盗んでまで、レティにちょっかいを出して困らせる男はこの船には居ないわよ。そこまでみんなバカじゃない。だとすると、予想は絞られるわ」
「まさか」
リックはある想像に辿り着き、表情を驚きに変えた。
「何の目的で……」
「いいこと?リチャード。あたしもディノスも考えがあって動いてる。調べは任せて。現段階で結論を出すのは、いくらなんでも早すぎる。もう少し様子見が必要よ。貴方はレティの心のメンテをしてちょうだい。前にも言ったけど、レティが頼って助けて欲しいのは貴方しかいないの。リチャード」
「勿論だ。調査は頼む」
「じゃあそういうことで。戻りましょう。レティが待ってるわ」
リックとユーシュテは頷き合い、食堂に戻るのだった。
膝の上で手を握って俯いた時、向かいでコーヒーカップとソーサーのぶつかる小さな音がした。
ホットミルクコーヒーを飲んだディノスは静かに言う。
「――四回目」
「はい?」
レティは顔を上げた。
「この短い間に、ため息をついた数だ」
「あ、あの……す……」
「謝る必要はない」
すみませんと言う前に、ディノスが遮った。
「抱えている憂いごとが自分で解決できない時は、手放すことだな」
「手放す、ですか?」
「考えるのをやめる、または他の人に一緒に考えてもらう。そういうことだ」
そう言って、テーブルの真ん中に置いてあるティーポットを取った。そしてレティに手を差し出す。
「あ」
空になったカップをディノスに預けた。
赤茶色の液体がカップを満たし、レティに返された。
「飲み物を飲むと、落ち着くぞ」
「はい。ありがとうございます」
まだ温かいそれを口に入れたら、確かに気持ちが少し落ち着いた。
「リック様は……その、やっぱり誰にでも……優しいんですよね……」
小さな声で言う。
自分だけの優しさや甘さだと、何処かで思っていた。でも、シュカの話を聞いて、そうではないのかもしれないと感じたのだ。
それが少なからず、レティにとってはショックだった。
「レティアーナ。今までリックと過ごしてきて、レティアーナが実際に見たりリックから聞いたことが本人のそのままの姿だ」
ディノスは静かに言った。
「確かにリックは船の皆にとっては親しみやすい。だが俺から見て、レティアーナに対する優しさと他の誰かに対する優しさは、また違う気がするが。自分にとっての特別な人には、やはり無意識に特別な行動をしてしまうのかもしれないな。俺も例外でなく」
「ユースちゃんにですか?」
「ああ」
恥ずかしげもなく、かと言って自分の中の情熱や気持ちをあからさまにするわけでもない。だが静かにそういうことをさらりと言ってのけるディノスは大人だし、素敵だとレティは思った。




