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ラグナロクの翼 ―あの蒼い空と海の彼方―  作者: Mayu
様々な出会いの章
36/451

まるで子どものような2

船縁に手を着いて、頬杖をついた。

なだらかな海。島も通りすがる船もなく、静かでたまにカモメの鳴き声が聞こえたり渡り鳥が見えるくらい。

風は少し強めで、レティに息を吹き掛けて髪を揺さぶる。


そうしてどれくらい経っただろう。

船内を歩き回る足音の一つがレティの横で止まった。そちらを見上げた。


「?」


灰色の髪で口の上にちょび髭を生やした男が、ジーンズのポケットに両手を突っ込んで立っていた。

リックよりも少し背が高いと思う。

ものすごく真顔でレティが見ていた方向を同じように見ている。

これで眉間が狭くなっていたら、怒っているのかと勘違いするかもしれない。そんな顔つきだった。


「ずっとさっきから海を見ているな」

「はい……」

「静かだな」

「はい……」

「俺には見えないがレティアーナ、お前にはあの小さな島が見えてるのかもしれないな」


「……」


レティは男の横顔から水平線に目を移した。

じっと見ていたら、確かにあの島の輪郭が一瞬ぼやっと見えた気がした。


(いつまでも心を島に置いておいてはいけないわ)


頭を振ってるのを見て、男が動きを制止するように、四本の指先をレティのこめかみに軽く当てる。


「?」


見上げるレティに彼は言う。


「無理矢理振り払わなくていい。大事な思い出なのだろう」


細いけど意外にザラザラした感触の親指が、藍色の瞳を大事に持つ目尻をなぞった。


「新しい環境に無理に馴染もうとしなくても、自然と慣れていくものだ。今までの思い出も持って、新たにここでの思い出も重ねていけばいい」

「はい、ありがとうございます」


ふわりと心が軽くなり、自然と笑顔が出た。


(怖くて厳しそうな人かと思ったけど、リック様とはまた違った優しさを持った方なのね)


彼の言う通りだ。今はまだ心がチクチク痛んだりするけど、それでもいいのだ。


「まだ見るか?良かったら船内を案内しようと思うんだが」

「行きたいです」

「そうか。では此方だ」


先に歩き出した背中に着いて歩いていたときだった。

白くて大きなものが視界の隅に入った気がした。それは気のせいでなく……。

バサッ!案内しようとしてくれていた彼の顔に掛かり、後ろに流れてきたそれがレティの視界を覆う。

真っ白で埋め尽くされた。


「だ、大丈夫ですかっ!?」


慌てて問いかけてレティが取り除く前に、彼は顔からそれを引き剥がした。その後に上を向く。

その方向には風に揺られるシーツその他の洗濯物が有るようだったが、一部分は何もかかっておらずに竿がむき出しになっていた。



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