まるで子どものような2
船縁に手を着いて、頬杖をついた。
なだらかな海。島も通りすがる船もなく、静かでたまにカモメの鳴き声が聞こえたり渡り鳥が見えるくらい。
風は少し強めで、レティに息を吹き掛けて髪を揺さぶる。
そうしてどれくらい経っただろう。
船内を歩き回る足音の一つがレティの横で止まった。そちらを見上げた。
「?」
灰色の髪で口の上にちょび髭を生やした男が、ジーンズのポケットに両手を突っ込んで立っていた。
リックよりも少し背が高いと思う。
ものすごく真顔でレティが見ていた方向を同じように見ている。
これで眉間が狭くなっていたら、怒っているのかと勘違いするかもしれない。そんな顔つきだった。
「ずっとさっきから海を見ているな」
「はい……」
「静かだな」
「はい……」
「俺には見えないがレティアーナ、お前にはあの小さな島が見えてるのかもしれないな」
「……」
レティは男の横顔から水平線に目を移した。
じっと見ていたら、確かにあの島の輪郭が一瞬ぼやっと見えた気がした。
(いつまでも心を島に置いておいてはいけないわ)
頭を振ってるのを見て、男が動きを制止するように、四本の指先をレティのこめかみに軽く当てる。
「?」
見上げるレティに彼は言う。
「無理矢理振り払わなくていい。大事な思い出なのだろう」
細いけど意外にザラザラした感触の親指が、藍色の瞳を大事に持つ目尻をなぞった。
「新しい環境に無理に馴染もうとしなくても、自然と慣れていくものだ。今までの思い出も持って、新たにここでの思い出も重ねていけばいい」
「はい、ありがとうございます」
ふわりと心が軽くなり、自然と笑顔が出た。
(怖くて厳しそうな人かと思ったけど、リック様とはまた違った優しさを持った方なのね)
彼の言う通りだ。今はまだ心がチクチク痛んだりするけど、それでもいいのだ。
「まだ見るか?良かったら船内を案内しようと思うんだが」
「行きたいです」
「そうか。では此方だ」
先に歩き出した背中に着いて歩いていたときだった。
白くて大きなものが視界の隅に入った気がした。それは気のせいでなく……。
バサッ!案内しようとしてくれていた彼の顔に掛かり、後ろに流れてきたそれがレティの視界を覆う。
真っ白で埋め尽くされた。
「だ、大丈夫ですかっ!?」
慌てて問いかけてレティが取り除く前に、彼は顔からそれを引き剥がした。その後に上を向く。
その方向には風に揺られるシーツその他の洗濯物が有るようだったが、一部分は何もかかっておらずに竿がむき出しになっていた。




