やきもち10
賑わう食堂に入り、手を繋いだままリックとレティはいつもの席についた。
決めているわけではないが、リックとディノスはいつの間にかできた定位置があるらしく、食事の時の二人の席は誰も座らない。場所はドリンクコーナーと厨房、どちらにも近いところ。
ディノスとユーシュテは既に食事中。ハムエッグにナイフを入れるディノスと、テーブルに座ったままロールパンを抱えて食べているユーシュテ。
「おはよう」
「おはようございます」
「おはよう。リックにレティアーナ」
「もわおー(おはよー)」
「口にものを入れたまま喋るな、ユース。口いっぱいにして、リスみたいになってるぞ」
ディノスは手を止め、食べるのに夢中なユーシュテの頭を指先でポンポンと叩いて窘めた。それから席を立ち、リック用のホットコーヒーをカップに注いだ。
「レティアーナ。ユースと二人にはジャンからベリーティーが用意されてる。テーブルにあるそれだ」
ディノスの言うとおり、透明なティーポットに様々なベリーがギュッと詰められて、茶色の紅茶で満たされている。甘酸っぱい良い香りがしていた。
ジャンは奥にいるのか姿が見えなかったので、レティは後でお礼を言おうと思った。
ベリーティーを口に入れて一息ついたレティを見て、ユーシュテが口と手を止める。
「まだ顔色が良くないわね?レティ。手繋いでたから仲直りはしたんじゃないの?」
「うん。したよ」
「なら元気なんなさいよ」
ユーシュテは立ち上がり、フルーツが盛ってあるボウルからイチゴを取り上げた。
「ほら。あたしの狙ってたイチゴ、あげるから。この中で一番美味しそうだから食べようと思ってたの」
小さな腕に抱えられたイチゴを受け取った。
「ありがとう。ユースちゃん」
一際赤く艶やかで大きなそれを口に入れたら、甘さが強くて美味しい。
「美味しい」
「ふふん。そうでしょうとも。あたしの目に狂いはないのよ」
得意気な顔で、ユーシュテはまたパンに噛り付き始める。レティもハムエッグやサラダを取り分けて食べる準備にかかった。
食事が終わり人がまばらになって来た頃、リックはさくらんぼを抱えてるユーシュテに向かい、人差し指を手繰り寄せるように振った。
「ん?」
齧りかけのそれを持ったまま、ユーシュテが来る。
「何よ」
その体を掴み、リックは立ち上がった。
「ユーシュテをちょっと借りるぞ。ディノス」
「ちょっ……!乱暴に掴まないでよ!てか、軽々しく触らないで」
体を握られたユーシュテが文句を言う。足をバタバタさせて暴れているが、当然びくともしない。
「ひーとーさーらーいー!!」
「人聞きの悪いことを言うな。すぐ戻るからな、レティ」
愛するレティの頭を一撫でして、リックは食堂を出た。通路で手の甲にユーシュテを乗せ、解放する。
「何なのよ、リチャード」
「レティのことだ。様子がおかしい」
「リチャードに分かんないことが、あたしに分かるわけないでしょ!それに、落ち込んでたのは写真のせいじゃない」
「いや、それは誤解を解いた。その後だ。昨日宥めて笑顔にしたはずなんだ。それなのに、着替えてその後見つけたらまた沈んでる。何か知らないか?」
「何それ?」
不服に頬を膨らませていたユーシュテが、リックを見上げて尋ねる。




