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やきもち9

リックが一旦離れる気配がしたので、思わずレティは体の向きを変えて腕を掴んだ。


「リック様!」

「ん?」


身長差もあり、上目遣いで灰色の目を見つめた。


(分かった。もやもやした気持ち)


今のように、この灰色の目に映るのが自分だけでいたいのだ。

優しくされるのも触れ合うのも、自分だけ。

今までレティと同じような立場でリックの近くに来て仲良くする女性がおらず、そういう気持ちを抱いてしまう自分を忘れていただけなのだ。

以前、リックが女性にキスされたと誤解したときも、こんな気持ちになっていた。


(やっぱりわがままな私。でも、止め方がわからない)


少し眉を下げて悩ましげな表情のレティ。

何を悩んでいるのか心配もしたが、同時に突然大人びたオーラで似つかわしくなく、リックの心が吸い寄せられた。


「リック様」

「ここでか?」


待ち望んでいるのが何かは、すぐにわかる。食堂に集まっているせいで、今はほぼ無人に近い通路。

レティの背と頭に手を回し、屈んだ。


「いつからそうやって誘うようになった?レティ」


少し目を細めて彼女を見て、そして唇を重ねた。精一杯背伸びをし、腕をリックの首に回してレティが密着する。

何度か触れ合った後に、息をつかせる為に僅かに離れた。その時にレティが小さな声で尋ねる。


「こんな私をはしたないと……お思いですか?」

「いや。最高だ」


再度二人が近づき、今度は深くなった。

必死にリックに追いつき応じようと一生懸命なレティを愛しく思い、優しさと情熱を込めて何度も何度も柔らかな唇を奪った。


(このままリック様に、上手く言葉にできない気持ちが伝わればいいのに)


どれだけ長いことそうしていただろうか。


「……はぁ、は……っ」


漸く二人の唇が離れ、そしてリックは浅くなった呼吸を元に戻そうとするレティの頬を包んだ。


「大丈夫か?」

「あ、はい」

「ここは?」


リックが空いた片手で、自分の胸をトントンと叩いた。

心は大丈夫かという意味だ。


「だい、じょう……」


はっきりと言えなかった。大丈夫だと。我慢するどころか、目に涙を溜めてしまった。


「大丈夫じゃないときは、言わなくていい」


リックは優しく笑って、レティの目元を指で軽く拭ってくれる。その後抱きしめられた。


「上手く言えないならそれでもいい。俺が必要なら言ってくれ。我慢ばっかしてたら、心が凍るぞ?笑顔も忘れてしまう。俺はレティの笑顔が好きだから。戻れるためには、何だってするさ」

「そ、側に……いて下さい。離れたくない」

「分かった。いつもよりたくさん一緒にいよう。俺がどうしてもいられない時は、他の誰かと一緒にいるといい。レティは一人でいると、色々深く考え込んでしまうようだから」


背中を摩られ、そしてリックが離れた。レティを抱えて行くのは易いことなのだが、大勢の目にそのまま触れられるのは、恥ずかしがりな彼女にとってはあまり嬉しくないだろうと考えたからだ。代わりに。


「食堂に行こう」


手が差し出される。レティはその手を握り、そしてもう片方をその腕に抱きつくように絡めた。

レティのゆっくりした歩みに合わせてくれるリックに、しっかりくっついて歩いた。



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