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やきもち8

「おはようございます。レティアーナさん。シュカさんは顔を洗って戻ってきたばかりです」


レティが部屋に入り、すぐにカーテンが開いた。


「レティちゃん?」

「うん。おはよう、シュカちゃん」

「おはよう!」


昨日のように簡易テーブルを設置してくれ、レティがその上にトレーを置いた。


「ゆっくり食べてていいよ。また時間が経ってから来るね。その時ちょっとお話ししよう?」

「うん。いつもありがとう」


食事に入らないように軽く髪を束ね、シュカが頷く。そろそろリックも風呂から上がってくるだろう。部屋を不在にしていると、探されてしまう。

レティが離れようとしたら、袖が軽く引っ張られた。


「どうかした?」

「ねぇねぇ」


手招きをして、シュカが呼ぶ。レティは膝に手をついて首を傾げた。


「なぁに?」

「船長さん、とってもいい人だね」


秘密の話をする時のような声の潜め方で、シュカが言う。


「さっき、あたしの様子見に来てくれたの。早く元気になれよって頭を撫でてくれたよ」


(……リック様が?)


チリチリッ。心の奥底で何かが燻る様な気配がした。


「レティちゃん?」

「あっ」


気づかぬうちにボーッとしていて、シュカの声で我に返った。


「何でもないよ。うん。リッ……船長さん優しい人だから。心配してもらえて良かったね」

「意外でびっくりして、ドキドキしちゃった」


ふふふと笑いながら、嬉しそうな顔をしているシュカ。その表情は、恐らく自分がリックから優しく撫でられたり構われたりした時と同じものだ。


(リック様……)


沈みかけた気持ちを、頭を振って振り払った。

リックはこの船の一番上に立っている。船に招き入れた者の容体くらい、気にするだろう。


「私もシュカちゃんに元気になって欲しい。この船の楽しいこと、一緒に経験したいな」

「うん!レティちゃんにそう言ってもらえて、嬉しい。でもお医者様のお話では、今日午前中安静にして、診察結果が良ければ午後から動いていいって」

「本当?良かったね」


レティは笑顔で答えたが、百パーセントの本心で喜べない自分がいることに戸惑っていた。彼女が回復するのは勿論嬉しい。助かったことも。でもそれが半分。残りは何と無く不安な気持ちに覆われるのだった。


「あ、変なことで引き止めてごめんね。レティちゃんもご飯だよね。またね」

「うん。またね」


軽く手を振り、レティは医務室を出た。


「はぁ……」


自室に向かって歩きながら、思わず長いため息が出てしまった。

自分の部屋が見えてきた頃、突然後ろから抱きしめられた。

ふわり。アプリコットブラウンの髪が揺れた。肩から前に伸びる海と同じ青い色の腕。


「ため息か?」

「リック様」


後ろを向き、リックを見上げた。


「私、ため息ついてましたか?」

「ああ、憂い顔で。気づかないなんて、何か気がかりなことでもあったか?」


撫で撫で。リックが頭を撫でてくれた。いつもは嬉しいのに、普段と変わらないその仕草が余計心をチクリと突いてしまう。レティは俯いた。


「何かあるなら、遠慮せずに俺に投げて構わないぞ」


(一晩かけて笑顔に戻したってのに、少し離れたこの間に何があった……?)


リックはレティの気づかないところで、苦虫を噛んだような顔をした。元々素直な彼女は、隠しきれない感情が滲み出て明らかに様子がおかしい。


「……大丈夫です」


(またアテにならない大丈夫か)


人に頼るのも感情をそのまま出すのも、レティにはある程度時間がかかる。仕方のないことだ。


「なら聞かないが、無理するなよ」



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