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やきもち7

「機嫌直してくれ」

「嫌です」

「そんなこと言わずに。な?」

「……」


ぷーっぷーっと、一定間隔で小さく息を吐き出しているらしい。拗ねたレティは答えてくれない。


「ひーめ。姫」


リックが動き、覆いかぶさるようにレティを抱きしめた。


「こっち見て。ほら、俺のレティアーナ」


耳元で低い声が囁く。初めて彼に、愛称でなく名前で呼ばれた。

分かっている。どれだけ拗ねたって、長くは彼を避けられないし逆らえない。

レティが後ろを向いたらリックがふわふわの髪を少し押さえ、ちゅっと音を立ててキスした。


「怒った顔も可愛かった。そうやって自由に気持ちを出すといい。ゆっくりででいいし、俺の前だけでもいいから」


(ああ……。リック様は)


ただからかって遊んでいただけではないのだ。加減して、わざとレティに感情を出させたということだ。


「ここではもう、我慢しなくて良いんだぞ。さあ、起きようか」


予定で起きる時間の七時を、軽くオーバーしてしまった。布団から離れようとリックが動いたら、服が引っ張られた。


「?」


思わずレティの方を向いたら、細い腕が肩に絡んできた。ふわり。そして一瞬のうちにいい香りがリックを包む。


「リック様、大好きです」


そう言って、頬にマシュマロのような柔らかいものが当たった。


「……ふふ」


すぐに唇は離れ、リックにぶら下がるレティが恥ずかしそうに笑っている。


「こいつー!」

「きゃっ!」


体がいきなり抱え上げられ、そして抱きしめられて足が床につかないまま、くるりと一度回された。その後、抱きしめる腕に力がこもった。


「あー、もう。離れたくない。ここでずっとレティといたい」

「それはダメです。ディノス様が困って怒ってしまいますよ。みんなリック様がいないと困るんですから」

「それもそうか。仕方ないな」


リックはレティを床に下ろした。


「じゃあ私、着替えてきますね!」

「ああ。また後で迎えに行く」

「はいっ!」


手を振ってレティを見送った後、ベッドにドサリと座り込む。膝に肘をつき、頭を抱え込んだ。


(まったく。あんな不意打ち、何処で覚えてくるんだ?)


先ほどのレティの笑顔。胸に爪を立てられたような気がした。砂糖が焦げるような甘く苦い感情が、今もリックを支配して締め付けるのだ。







部屋に戻り、少し厚手の黒いタイツとクリーム色のニットのワンピースに着替えた。流石にサンダルでは寒いしおかしいので、靴を履いてレティは共同の洗面所に行った。


「おはようございます」

「あ、レティアーナちゃん。おはよー」

「はよーっす」


歯を磨いていたり顔を洗っているクルーが気がついて、挨拶を返してくれた。

食堂に行く前に迎えに来ると言っていたけど、リックは朝風呂に入るのでそんなにすぐ来ないことは分かっている。

そこで一足先に食堂へ向かった。中は早々とお腹を空かせたクルーが集まっていて、賑わっている。


「お嬢ちゃん、おはよう!こっちこっち」


カウンターにジャンが待っていてくれて手を振ったので、同じように振り返した。


「おはようございます」

「これ、医務室行きのご飯だよ。船医が食欲消化に問題はないって言ってたから、消化にはいいけど普通のご飯にしたよ」

「ありがとうございます。じゃあ、早速持って行ってきますね!またリック様と来ます」

「あいよ!行ってらっしゃい」


トレーが手渡され、それから一番忙しい時間帯の彼はすぐに厨房へ入って行った。

人とぶつからないように運び、外へ出た。すれ違うクルーや、途中でディノスと彼の頭の上で先を急かすユーシュテとも会った。

医務室の周りの部屋は留守のせいで通路は静か。ここの部屋の周りに割り当てられるのは、元々あまり騒がしくない性格のクルーが多いのだが。


「おはようございます。レティアーナです。シュカちゃんのご飯届けに来ました」

「はーい」


手が塞がってノックができないので声をかけた。すぐに返事が返ってきて、看護師がドアを開けてくれる。



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