やきもち6
船に戻って鳳凰を体に戻し、レティを抱いて自室のベッドに寝かせた。
(夜は逃がさないって言ったけど、結局抱けなかったな)
ゆっくり呼吸をするレティの髪を指先で触れるくらいに梳きながら、リックは思う。でも、笑顔が戻った。緊張は取れたし、久々に一緒の眠りにつける。
(充分か)
フッと息をついて微笑み、寝る準備をするのに着替えた。ブーツを脱いで裸足で絨毯を歩き回り、シャツとジャージに着替えて部屋の明かりを落とし、ベッドに潜り込んだ。
スプリングが弾んで軋む。眠りが浅くなっていたのかレティが僅かに目を覚ました。
「リッ……ま?」
殆ど寝た状態ではあるが、手探りでリックを探して服を掴んできた。
(甘えっ子)
レティの頭を少し起こし、その下に腕を差し入れた。空いた片手もしっかり彼女を抱いて。温もりも呼吸も心音も全てが伝わり、安堵したように息を吐いてレティがまた寝息を立て始めた。
「おやすみ」
囁いて軽くキスをして、額同士が触れ合うくらいの距離でリックも目を閉じた。
「……ん。……だい……す、き……れす」
暫くしてレティが寝言を言い、リックは目を開けた。
(ああ、もう)
可愛い可愛い。頭を撫でてやり、また目を閉じた。
(あまり可愛いことを言われると、眠れなくなる。勘弁してくれ)
彼女はこの甘い余波を、何処まで広げて行くのだろうか?侵食して包み込んでドロドロに溶かしてしまう、ある意味たちの悪い毒のようなこの愛しいという湧き出る気持ちを。
眠りが浅くなり、気温が低くなったと無意識に気がついた。暖を求めて温かいところに身を寄せたら、布団を引き上げて布の擦れる音がした。
それで目を覚ます。
「……?」
目を擦りながら開ける。
「起こしたか?」
リックが真近でレティを見守っていた。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
頭を上げて枕元の時計を見る。あと十分で七時だ。そして、枕の直ぐ下にリックの腕が伸ばされているのに気がついて、冷えたそれを触る。
「腕枕してくれてたんですか?一晩中?」
「まあな」
「痺れませんでしたか?」
「ちょっとな」
軽くリックが笑う。レティは優しく腕を摩った。
「リック様。今朝、ちょっと冷えますね……」
「そうだな。そういう地域に入ったかな?それとも変わりやすい天候のせいか。暖かくするんだぞ」
「はい」
「そしたらもう五分だけ。寝よう」
欠伸をして、リックが布団を被せた。ギュッと近くに抱き寄せられる。そして。
「リッ、リック様っ」
「んー?」
片方は背中に回る手だが、もう一方は。
ふにふにふにふに。
「何してるんですか?」
胸を揉んでいる手。
「細かいことはいいじゃないか」
「よ、良くないです!」
「こうすると大きくなるかもしれないんだろ?気にしてるみたいだし、手伝いをな」
「い、いえっ!良いです」
「遠慮するな」
「してません。な、何かえっちぃですよ!」
目を開けて必死な顔を見て、リックは笑い出した。それでからかわれたのだとわかり、レティはうつ伏せになって腕に突っ伏した。
「朝からリック様がいじめますぅーっっ」
「はははは。ごめんごめん、悪かったよ」
「悪いと思ってないですっ!」
顔を上げて腕に顎を乗せて、ぷーっと頬を膨らませるレティ。珍しくぷんすかと怒っているのだが、リックにはそれも可愛くしか映らない。それに、余計笑いを誘うようだ。




